善徳参戦
7/19 本日投稿分です。
「むうっ。貴様はあの時の」
牛頭が飛び退き、善徳を睨みつける。
「厩戸どの。遅くなりました」
「ぜ、善徳どの」
目を見開く厩戸の表情は、喜びよりも驚きの色が濃い。
「どうして?」
善徳はゆっくりと振り返る。
すると、後ろに控えていた娘が一礼した。
「厩戸さま、嶋ちゃんです。嶋ちゃんは治癒術の大名人なの」
刀自古の言葉に笑みを浮かべる嶋だったが、厩戸を見て驚いたように目を見開いた。
「厩戸さま、失礼いたします」
そう言うと、厩戸に駆け寄り、手をかざす。
「生命の聖霊よ、慈しみの光を」
嶋の手から淡い緑の光が発せられ、厩戸の全身を包み込んだ。
「こ、これは?」
牛頭との闘いによる傷が、みるみるうちに癒されていく。
「厩戸どの、嶋のお蔭で命を繋ぐことができました。この通り」
善徳はそう言うと力こぶを作ってみせる。
それを見た厩戸にようやく笑顔が戻ってきた。
「そうか。嶋どの、本当にありがとう」
深々と頭を下げる厩戸に、慌てて首を振る嶋だった。
「精霊たちが、善徳さまの命を繋いでくださったのです。私の力など」
「おい、お前ら。いつまで待たせるつもりだ?」
腕組みをした牛頭が巨矛を岩肌に叩きつけた。
「特に、お前」
牛頭は巨矛を善徳に向ける。
「油断していたとはいえ、貴様の攻撃で膝をついたこと、俺は忘れてないからな」
名指しされた善徳は、不敵な笑みを浮かべて神剣天断を構える。
「ふん。一度で足りぬなら、何度でも膝をつかせてみせよう」
刀自古や厩戸たちも一斉に身構える。
「牛頭よ、どうやら遊びの時間は終わりのようだ」
それまで岩壁にもたれて静観していた馬頭が声をかける。
「なんだと?」
「新手が現れたのだ。俺にもやらせろ」
牛頭は不満そうに唇を歪めたが、渋々頷きを返した。
馬頭も青龍刀を静かに構え、牛頭の横に並び立つ。
牛頭と馬頭、二体の闘気が同時に解き放たれた。
「厩戸どの、あの二体との闘い方ですが、どう見ますか?」
「牛頭は化け物じみた怪力による力押し、馬頭は高速移動からの術の行使」
その言葉に我が意を得たりと頷く善徳。
「で、提案です。今回は、刀自古の速さと厩戸どのの火炎呪で馬頭と、天燈鬼どの、龍燈鬼どのとわれが牛頭と」
善徳の提案に頷く。
「承知した」
「嶋は後方で回復に専念してくれ」
「作戦会議は終わったか?」
馬頭が青龍刀を構え、怪しく光る眼で油断なく見つめている。
「さあ、やろうぜ。殺し合いの始まりだ」
牛頭が巨矛を振りかざし、獰猛な笑みを浮かべる。
「いくぜ!」
牛頭の足元の岩盤が砕け、その巨体が弾丸のように飛び出した。
だが、善徳は一歩たりとも引かない。
神剣天断を正眼に構え、真正面から迎え撃つ。
巨矛が唸りをあげて善徳に振り下ろされる。
神剣が閃く。
凄まじい衝突音と共に、周囲の岩盤がひび割れる。
「おお、小僧、あれを受けきるか」
天燈鬼が感嘆を漏らす。
「われらも行くぞ!」
龍燈鬼が金棒を手に飛び出していく。
一方の馬頭は、全員の動きを見極めようと目を光らせていたが、厩戸たちが向かってくるのを見て呪文を唱える。
「風よ、集え。疾風走馬!」
その瞬間、風を纏った馬頭の姿が消えた。
「後ろ!」
刀自古が叫ぶ。
厩戸が身をかがめると、その頭上を馬頭の青龍刀が掠めていく。
「火炎呪!」
厩戸の放つ炎を軽々と躱し、馬頭が二人から距離をとる。
「ほう、俺の動きが見えているのか。面白い」
馬頭は口の端をあげて青龍刀を構えなおした。
戦場は瞬く間に二つに分かれ、それぞれの壮絶な闘いが始まった。
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