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世界樹の下、現実の暮らし  作者: のた。


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ラクヨウは冒険者としてそれなりに成功していた。

それもあって、軍隊へ誘われていた。

この国の軍人はしっかりとした収入がある。

国民からも感謝されていて、それはよかった。

それはよかったが、彼は、戦争があまり好きではなかった。




戦争が好きではない理由はシンプルだ。

人の死体を見たくないからだ。

冒険の最中に大事な人を亡くした彼は、それがトラウマだった。

人の死体を見ると、どうしてもそれがフラッシュバックしてしまうのだった。人を殺すことも、できない。




黒い髪の毛と、長めの前髪。普段は死んだような瞳をしているが、いざという時にはキリッと光るその瞳。どこか知性的な雰囲気もあり、密かに彼のことを慕っている女性もいた。




そんな女性もいたが、彼は女性に興味がなかった。

なぜならば、冒険の最中に亡くしてしまった大事な人とは、彼にとっては自分の命よりも大事な妻だったからだ。大事な人を、亡くしてしまった。




そのショックで今も女性に興味が持てないのだった。

ずっと一人で生きていくつもりであった。

それでも、本当に一人だけで生きていくことはできない。そんな中、この、青臭さと甘い臭いと腐敗臭が混ざったヴァロベルスで、彼は親友とも言える人間が一人いた。





「また冒険に行くのか?もうよくないか?お金のことなら心配ないはずだろ?」

「それは俺が軍人になったらの話だろ。別に、そんなのなることないんだって」

「でも、名誉な仕事だろ?誘われること自体があんまりないわけだし、きっとそれなりの役職に就けることになるんじゃないか?このまま冒険者やっててもなんにもならないだろ。年取ったら動けなくなるしな」

「それでもいいんだよ」




親友の名前はアシン。

バーのマスターをしている彼は、ラクヨウが妻と一緒に店に通っている姿をずっと見ていた。が、とある日からそれが一人だけになったので、全てを察した。




アシンの年齢は四十代後半。

いろんな職業を経て、夢だったマスターを始めたのが30歳。

その時からずっとバーのマスターだけをしていた。




マスターらしく、身だしなみはしっかりと整えていて、誰が見ても不潔感がない。特に、眉毛は丁寧に処理をされていて、客商売をするのに相応しい見た目になっていた。



二人が話している場所は、そのバーだった。

整ったマスターがいる店らしく、店内も清潔に保たれていた。

バーの名前はアルバトロス。

元々は誰でも入れる店だったが、規模が大きくなるにつれて忙しくなり、今では会員制になっている。アシンはあまり仕事をしたくなかったので、ゆったりと過ごすという道を選んだ。



そんな道を選ぶだけのお金もあった。

それだけの忙しさがあったのだ。





「もったいないなぁ。数年間必死に働けばもう一生遊んで暮らせるのにね」

「俺は仕事をしてたい人なので、どうせ何かはするよ」

「ラクヨウだったら戦力にもなるでしょ?」

「なるかもしれないけど、俺は今の生活で満足してる」

「将来はどうなるかわからないよ?まあ、それは俺に言われなくても十分わかってるだろうけどさ」




二人の間で亡くなった妻のことが浮かぶ。

そんなことになるなんて二人とも思っていなかったからだ。

妻の名前はミュシャ。

全体的に線の細い印象がある人物だったが、冒険の腕はしっかりとあった。それでも、死んでしまったのは、世界樹のせいでもあった。





世界樹の枝が落ちてくることによって、道が塞がることがよくあった。彼らが冒険していた時も、帰宅するのにいつも使っていた道が行き止まりになってしまっていて、迂回せざるを得なかった。



迂回している中で、二人は迷子になった。

結果、魔力もアイテムも尽き、結果としてモンスターに襲われ死んでしまった。世界樹の境界線の、本当に、もう少しで国へ帰れるというギリギリで殺されてしまった。



それはラクヨウのことをずっと苦しめる。

もしも自分がもっと強かったら。

そう思えば、自然と冒険者としては成功できるようになった。

それでも、元々のセンスがそこまでではない彼はそれなり止まりの冒険者だった。そんな彼にとって、軍隊へ加入することは全く悪いことではない。





それでもやはり、どうしても戦争が苦手なのだった。

どうにかしてその苦手意識を無くしたいとも思っていた。

が、そもそも宗教的なことをわかっていない彼にとっては、戦争の意味自体もよくわからないものでしかなかった。どう受け止めればいいのか、悩んでいた。





「何よりもさ。この世界樹の下は守らないといけないはずだろ?ここだけは他の人間に明け渡してはいけないわけだからさ。それの手助けをするっていうのも、悪いことではないと思うんだがな?」

「考えておくよ」




当然のように、周囲に自分の感情は言っていない。

そんなことを言って無駄なトラブルになるのが嫌だった。

だから、彼はそれを自分の中にだけ隠していた。

親友のような存在にもそれを言うことはできなかったのだ。

妻にさえ言えなかったそれは、この国では禁句のようなことだった。それでも、これはこの国が好きだから、ここで生きていたいと思うのだった。

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