第38話 フェルク・レスタム② 夜・『強烈』をぶちかます
ドーム3階北方面に位置するガラス張りの展望台にも、少なくない人気がある。
遠方より見える花火の数々に注目し、移動をせず留まっているようだ。
カーゴボートを降り、エレベーターで到着したジン達はドアが開いて早々に賑わう声を耳にする。
まだパニックにはなっていないようだが、このままでは時間の問題になると見て間違いは無い。
一同は直ぐ様行動を開始する。
第一声は、ジョシュの拡声器越しのものだった。
『お客様、申し訳ございませんがライブ会場への速やかな移動をお願いします! 』
「整備担当員が間もなく参りまぁす、この場所を一時閉鎖しますので移動をお願いします」
警官2人による虚偽の知らせではあるが、島外からの観光客が混じっている可能性がある以上、怪生物の言及は出来ない。
不満を露わにする声がちらほらと出るも、物で釣るまでも無く展望台に居た客はその場を離れていく。
ジン達以外が出て行った束の間、続々と撃ち放たれる花火がかなり近づいて来ているのが見えた。
避難完了に安堵する暇すら無い事態にジンは冷や汗を浮かべる。
「もうあんな近くまで……!」
都市部の夜景の先に居る『べモン・ベルス』の勢いは衰えるどころか増して来ている。
それを裏付ける状況証拠を目にし、結華がこうなっている理由について、心当たりを述べる。
「『べモン・ベルス』はひびわれから出てくる。どこかにあるのかも」
「成る程。南側を見張っている7番隊に掛け合ってみましょう」
ジョシュが通信機で他の警備隊と連絡を取っている間、ジンは気になった事をゼンタロウへ問うた。
「そういえば、あの方面からしか怪生物は出てないんですか?」
「今のところは、ね。連中、どういう訳か地上からも来ないんだ」
想定し得る事態を回避出来た事で余裕が生まれた柔らかい視線を受けつつ、ジンは考える。
「ひょっとして、集団戦に慣れていない?」
ジンの発言をゼンタロウは直ぐ様否定した。
「それは無いと思うなぁ。海岸線からぽつぽつと乗り込んで来てた訳だし、距離的にもそんなに――――」
海岸線での状況を思い返し、ゼンタロウは何かに気付いた様子を見せる。
「時間が要るのか?」と彼は服の中からスマートフォンを取り出し、忙しない操作を始めた。
そして、指を止めたゼンタロウが自分の抱いた疑問に、納得できる答えを見つけた。
「海岸線で発見された罅割れの数々。これの発生頻度は時間換算にすると多いようで少ない。所謂クールタイムというものが必要なんでしょうね。どんなに早くても前の発生から6時間はかかっている」
「という事は…」
「間に合わないんですよ。22時までに新しく罅割れを出すのが」
無限のようで、実際は有限である事。この事実は確かな希望となる。
また、ゼンタロウは補足事項として罅割れの観測時刻とその近辺での『べモン・ベルス』の観測時刻が、いずれもほぼ同じである事を突き止める。
「そして、一度罅割れを出してしまえば『べモン・ベルス』の発生を止められない。近場に仕込むなんて出来っこ無いんだ。海岸線のは全部取り除いたからあの向こうの罅割れさえ塞いでしまえば」
「22時を安心して迎えられる、ですね」
「その通り」
両者が頷くと、通信を続けているジョシュの肩をゼンタロウが軽く叩いた。
彼が振り向いてから、伝達事項を付け足す。
「ついでに伝えてくれないか。北東の守りを固めろ、って」
無言の了承をし、ジョシュはそれを7番隊へ伝える。
安堵する雰囲気が漂う中、ジンは外の状況の変化に気付いた。
花火を遮る巨体が高速で迫ってきていたのだ。
「つッ、突ッ込んでくる!」
トランペットの吹き口側を向けて突撃してくる巨大怪生物。
音響の有効距離に進入して尚も勢いが削がれる気配が無い。蒼い軌道が何度も楽器の体に深々と突き刺さるが、これでも止まらない。
ジンと結華が身構えるが、ゼンタロウ達は動じない。
まだ手に持つスマートフォンに、近辺からの魔力反応を感知したから。
トランペットが残り500mを切った途端、半透明の結界が姿を現した。
この結界がトランペットの突撃を阻み、押し留め続けた。
「これ、防御結界か…?」
「――えぇ、そうです。先も申し上げましたでしょう、上級魔法でも5回まで耐え得る設計である、と」
ジンの呟きに答えたのは通信を終えたばかりのジョシュだった。
彼は真っ直ぐ歩き進み、激しい光を発生させる結界をまじまじと見る。
「この結界がまず1つ。他にも色々と備えてありますが、説明を省きましょう。どうやらこれで十分のようですので」
「それはどういう――」
ジンが言い切るより先に斜め上を指差す。
これを目で追うと、トランペットの更に上から鈍器が勢いよく落ちてきた。
この打撃面が直撃し、トランペットの体をへし曲げながら結界に沿って滑らせていく。
地面に接触する前に出現した穴に巨体は鈍器ごと吸い込まれ。
直後に上空に出現した穴から巨体が放り出され、弾け飛ぶと同時に大きな花火が撃ち放たれた。
「な、何が起きてんだ…?」
あまりに瞬間的な出来事に、ジンは間抜けな声を漏らす他無かった。
ドーム外にて。
展望台――つまりはドームの屋根に、3人の少女が立っている。
この内の黄色い少女が扱う『ゲート』がある程度の大きさで開くと、彼女の真横に伸ばした腕の上へ鈍器が降ってきてこれの持ち手を掴み取る。
その鈍器は、大きなハンマーの形状をしていた。
火山を彷彿とさせる全体の形状で、打撃面が規則的な赤熱と冷却を繰り返す。
黄色い少女――タルチは右腕に大きな負荷がかかっているにも関わらず。
涼しい顔をしながらもう片方の手で赤いホットスナックを抓んでいた。
開きっぱなしの小さな『ゲート』をホルダー代わりにしながら。
「やるネェ、タルチ。もう一体もお願い出来ルゥ?」
「うん、任せて」
ユドゥの指示に短く頷き。
続いて高速で迫っていた大型トランペットを、結界に到達するより前に『ゲート』へハンマーを落として撃破する。
ハンマーは『ゲート』を通過し、再び右腕へ上から戻って来る。
『ゲート』を応用した質量攻撃。
落下距離を稼いでから叩きつけるという至極単純な原理だが、魔法武器であるハンマーそのものの威力もあって、確実な効果を見せていた。
「次は?」
「連続で来たネェ。まだこっちは準備が要るから頼むヨォ」
「任せて」
タルチは距離の近い順から同じ要領で撃破していく。
片腕でハンマーを落とし、もう片方で赤いホットスナックを抓む。
口の中に広がる強い辛味を堪能しながら、至って冷静に脅威を処理していた。
先程から食べ続けているタルチの姿を見て、ロギィは思わず生唾を呑んだ。
卑しいとは思いつつも、ロギィは頼む事を選ぶ。
「ね、ねぇ。一口ちょうだい?」
「良いけど、辛いよ? ものすごく」
快諾を聞き、伸ばそうとした手が硬直する。
固まりながらも、親友の好みを思い出すのだった。
「…じゃあ、止めとくわ……。よく平気そうに食べるわね…」
「とってもポカポカして美味しいから。『地上界』も美味しい物、いっぱいあるよね」
「それは同意するわ。あのアイスもたくさん買っちゃったし」
「じゃあサァ。美味しい物守る為にも頑張らなくちゃあネェ?」
会話に混ざったユドゥへタルチもロギィも頷く。
直ぐ様、ロギィは手元へと特殊な短剣を出現させた。
暗がりの中、鱗を敷き詰めた刃身が僅かに光を反射する。
「…行くわよ!」
ロギィの張り上げた声に、ユドゥもタルチも気を引き締めた。




