第34話 フェルク・レスタム② 夜・『喧騒』が近付いて
魔法戦。魔法行使を前提とする戦闘行為全般を指す。
索敵、攻撃、防御、補助、転移、妨害。種類を問わず魔法を使い戦略の応酬を行う為にこう呼ばれる。
また、魔法戦には戦闘の規模は問わないという側面もある。諍いが激化して魔法戦になる事もあれば、稀なケースではあるものの野生動物の鎮圧に魔法を行使する事も魔法戦と呼称出来る。
当然、群と群の魔法行使を前提とする衝突も魔法戦であった。
今現在、夜空の下6番隊の援護を受けつつ戦いに参加した魔導警備隊4番隊と、迫りくる『べモン・ベルス』の大群の空中での衝突もそうだ。
空中機雷が起爆し、連鎖する花火を装う最中。爆破で生じる熱風を顔色1つ変えないまま受ける彼らは、それぞれ状況に適した装備を使用し魔法弾を射出する。
適宜軌道修正をしながら飛んでいくそれらは『べモン・ベルス』の数々へ直撃し、貫いた怪生物の肉体を膨張させ、破裂させ、花火に変える。
激化していく戦闘の最中、警備隊の1人が芸術的とも言える花火の数々を見て、続いて真下を見る。
既に警備ロボットによる避難誘導は完了しており、人1人も見受けられない。
「ああ、ちと寂しい気がするな……」
この光景を警察機関だけが見ていて良いものなのか。今日はせっかくの祭りだろう。
戦いの中考える事では無いが、そのような勿体無さが頭に過ぎる。
それから、再び『べモン・ベルス』の方へ向き直る。先と変わらず、大群を構成するいずれもが楽器を歪めた姿をしていた。
「これからだってのに。荒らしはダメだと教わんなかったか?」
独り言をする男警官の元にも、怪生物の数々が襲いかかる。
対する男警官は冷静に見据え、距離の近い怪生物から対処に当たった。
伸ばした警棒でバイオリン型を殴り飛ばし、シンバル型の隙間に銃弾を放ち往復の短くなる跳弾を食らわせ。
これらの後に飛び出してきたトランペット型を横から、特製手袋で殴り各個撃破してみせる。
それでも尚、『べモン・ベルス』の勢いに衰えは無い。独特の絶叫を合図に、怪生物の数々は己の身体的特徴を利用し弾を射出する。
その弾はいずれも歪んだ音符の形をしており、警備隊は防ぐべく盾を構えた者達が前に出る。
盾に音符弾が触れた途端、弾は爆発を起こしこの威力が直撃する。
『ぐぅおおぉ……!』
膜状の魔力を纏う盾に損壊は無いが、それでも受けた威力はかなりのもので。
空中でありながら踏ん張る彼らは歯を食いしばりながら耐え切る。
爆発が完全に消え去った束の間、『べモン・ベルス』は再び迫ってきていた。
「来るぞぉ!!」
その怒号と共に、盾を構えた者達が先頭を離れ、開いた隙間より各種装備を用いて警備隊の面々が迎撃に入る。
『フェルク・レスタム』を守る為の戦いであり、『ラ・ダ・リーシェ』の出番まで時間を稼ぐ戦いでもある戦いは、激化の一途を辿った。
時刻は現在18時42分。『ラ・ダ・リーシェ』の出番まで残り6組。
◇◆◇
外が騒がしくなる一方で、外部の喧騒全てが遮断されているバレルドームの内部。
休憩エリアにて予めショッピングエリアで買っておいた夕食を食べ進めつつ、ジンはスマートフォンの画面に注視する。
「うん? 緊急警報……?」
通知として表示されたそれをスワイプ。慣れた手つきでロックを解除して詳細を確認する。
魔法戦が行われているという旨の警報と合わせて表示されるドーム近域の外出禁止令の発令。
前者はともかく後者は朝に記者会見の形で通達されていたが……問題は指定区域と現在時刻だ。
「まだ早ェし近くじゃねェかよ。どうなってんだ…?」
どうなってんだ、とは言いつつも。
心当たりはある。何故なら、『べモン・ベルス』は人の事情を慮るなどしてはくれない。
彼に呼応するように、玉子とハムとレタスを挟んだサンドイッチを噛み千切り、結華は答える。
「もぐ。『べモン・ベルス』もぐ、来ちゃったもぐ。…もぐ」
「オマエは食うか喋るかどっちかにしろ…」
むせるぞ、と短く注意を加えつつも、義妹に同意するジン。
周囲を見渡してみれば、口々に警報についての反応を示していた。
だが、ジン達と違い誰もが心当たりがある訳では無いらしく、困惑の色が強い。
「えぇ~、22時まで外出禁止? 別にその間に出ようと思わないけど…」
「外に出るどころかドームに入るのも駄目って、何の騒ぎ?」
「酔っ払いが暴れてて、警備隊が出動する羽目になったとか? …にしても大袈裟だな」
周囲のざわつきが大きくなっていく中、食事を済ませてしまおうとするジン達。
それから少しして、結華は近づいて来る2人の姿を見た。
「お兄ちゃん。だれか来た」
「ん? おう――」
覆い被さるような影を見つつ、振り向くとそこには。
大袈裟にも思える装備を青を基調とする制服の上より身に付けた、青年2人が立っていた。
誰がどう見ても警察関係者である彼らは柔らかい笑顔を浮かべる。
直後に、白金の髪と翠眼の男が2枚の資料を持ち上げ、白いメッシュの混ざる濃灰のパーマヘアと隈のある青い眼をした男が、被っていた帽子を軽く持ち上げた。
「七桜 結華に屍守 ジン。間違いありません」
「――ちょっと、お時間良いかな?」
資料に書かれた文字が発光している。入場前に少年少女でも書かされた文書を頼りに来たのだろう。
ジンは何が飛び出すか分からない状況に緊張感を浮かべるも、一方の結華は警官2人を見ながらサンドイッチを平らげる。
ざわめきはいつの間にか収まっていて、幼い少女が咀嚼しながら次のフードパックを開ける音だけが鳴っている。
シュールな状況を、濃灰の髪の男が破った。
「うん。食べながら聞いてくれて良いよ。君もお腹空いてるだろ?」
「えっ。ああ、はい……」
意外と融通が利く。そう思いながら食事を再開するジン。結華と対面している配置の両脇に、白金の髪の男と濃灰の髪の男が加わり、話を進めた。
「で、僕らがここに来た理由なんだけど。このドームに入る前に書かされた誓約書。覚えてるかい?」
「うん。あぶない事につかっちゃダメ、って書いてあるの」
濃灰の髪の男の言葉に答える結華。一部を要約すればその通りなので、警官2人は頷く。
違反があれば即座に何らかの罰が下る為、今のところ3つある内の1つ目の項目を破ってはいない。
2つ目についても厳しい内容が書かれていたが、ジンが違反した訳でも無い。トラブルを解決した事が脅威の排除、と見做されたからか。
しかし、今の状況では重要なのは3つ目だ。『避難誘導時に警察関係者やドーム職員に協力を求められた場合、可能な限り応じる』事。
これが求められているのは、他でもない警官2人が言わずとも物語っている。
「それもあるね。でも、今大事なのは3つ目の項目。ドーム内は一応安全圏ではあるけど、避難誘導が必要になる箇所があるんだ。それが此処みたいな窓際のエリア」
「外で何かが、起こってる…んですね」
「そうです。怪生物『べモン・ベルス』が襲来した、と言えばご理解いただけますか?」
『!!』
予想は的中。故にジンと結華は驚きを示す。
望ましく無い起こり得る未来が、現実になってしまったが為に。
「まもなく。そうですね、30分もしない内にドーム外付近へ到達するでしょう。混乱が起こる前にライブ会場への誘導を手伝っていただきたいのです」




