第33話 フェルク・レスタム② 夕・世界を越えて『来る者』は
『夕蘭亭』。そのバンドは日本に伝わる和楽器とロックを組み合わせた和風ロックを得意とする。
三味線や和太鼓が主旋律を担い、そこにエレキギターやベースといった電気楽器が加わる。和洋折衷を曲という形で実現させているのだ。
バンドのリーダーを務める大人びた雰囲気を持つ少女を中心とした5人の、『フェルク・レスタム』に於いても珍しいパフォーマンス。如何ほどの魅力かは盛り上がる会場が示していた。
夜の部を堂々開幕させる調律の取れた三味線とギターの音色にジンも思わず唸る。
「この『フェルク・レスタム』だけで色んなバンドを見てきたが、このバンドも負けず劣らず凄まじい個性を持ってるな……」
「アマチュア上がりのじつりょくしゃたち、なんだって。中小しょぞくやアマチュアでもさんかできるのは、この人たちや『ラ・ダ・リーシェ』がいるから、かも」
「そういや『ラ・ダ・リーシェ』も中小レーベルからの出発だったな。バンドを組んでるなら平等にチャンスはある、のか」
『フェルク・レスタム』はミュジ市で開催される世界規模の音楽イベントでありながら、見込みのあるバンドであるならば垣根を超えて参加出来る。それこそ、大きな実績の無いアマチュアバンドであろうとも。
大規模のライブ会場で強い印象を刻む事が出来たなら、新たなファンを大量に呼び込む好機が生まれる。尻込みせず立ち向かった者だけが、夢の続きを見られるのだ。
『フェルク・レスタム』による効果は絶大なようで、今回参加した中小規模のインディーズバンドやアマチュアバンド達に好意で以って注目する反応の数々が、ふとスマートフォンを覗いて見たネット内に見受けられた。
この一方で、ジンと結華は『フェルク・レスタム』のこの方針についてを推察する。
「プロなら貫禄を見せ、実績の無い奴らなら箔付け出来る、か。上手いこと成り立ってんなァ」
「音楽をこころざすなら活用してくれ、ってことなのかも」
「主催側の思惑がそうだとして、思惑通りに出来るかどうかは別問題だがな…」
こうは言ってみるものの、今まで見てきたアマチュアやインディーズバンドはいずれもやり切った雰囲気を出していた。
その様子を鵜呑みにするならば。懸念通りのバンドはそもそも参加する資格すら与えられないのでは、ともジンは考える。
何にせよ、今が出番の『夕蘭亭』は場数を踏んできたプロである事に間違いは無い。彼女達は緻密な計算によって和楽器と電気楽器の調和を成し遂げてみせている。
優雅とすら感じるリズムは聞いていて心地が良く、これまでとはまた異なる形で会場が盛り上がる。
その中で、ジンは魔力によって作られた蝶や風に揺れるような動きの花の数々を見た。
「曲の雰囲気に合わせた魔法の演出か。今まで楽器のエフェクトを強めたり直接観客席の方まで飛んできたりだったから新鮮だ」
「ふんいき作りに見える。いいかんじ」
「やっぱ、ユイカもそう思うか」
世界観作りとも形容できるそれらに注目していると、リーダーの少女の動きに沿って、咲いていた半透明の花の数々が散って風に舞う。
実際には風は吹いてはいないが、そう見えるように緻密な魔力操作が行われており。曲調と相まって如何な情景を象るのか、想像力を掻き立てる。
長きに渡る旅と別れ。綴られる歌詞が描く光景を想像すると、ジンの目から思わず涙が零れ落ちた。
魔法の効果によって感情を揺さぶられたとは理解しつつも、これを引き起こせるのは『夕蘭亭』の実力であるとも判断し感心する。
そして、蝶や花びらを消すと共に奏でられる曲の終わりから数秒後。これまでと同様のようで僅かに異なる拍手喝采が鳴り響いた。
このムーブメントにジン達も加わる。その間に『夕蘭亭』は次の曲への準備に取り掛かっていた。
『フェルク・レスタム』が予定通り進んでいる一方で。
日が沈み暗くなっていく空の下、魔導警備隊4番隊はドームの外、詰め所付近で警備を行っていた。
10人ずつの交代制、ドーム近辺に怪しい動きが無いかを探っていると、制服に装着している受信機が鈍い音を立て振動する。
それに触れれば空間異常の発生を地図情報と共に各々の目の前へ表示する。
空間異常に付随するように、怪生物が続々と出現するのも確認された。
「北東2km先…この数は!」
「『べモン・ベルス』だ!」
「予測では18時から来るとの事だったが……早めてきたか」
得られた情報から口々に判断を下す。元より襲来の予測されていた『べモン・ベルス』への対処を任されていた為、彼らの意思は最初から決まっていた。
「他の警備隊は!?」
「既に行動を開始している模様です!」
「ならばこちらも手筈通りに動くぞ!」
予定時間の1時間も早いが、やるべき事は変わらない。
休憩中の同じ4番隊にも連絡を取り、機を見て合流するよう伝えつつ、彼らは魔法の力で飛翔する。
ドーム上空へと飛べば、夜空であっても夥しい数の影が確認できる。
徐々に大きく見えてくる影の軍団を双眼鏡で見ると、この1つ1つが楽器の形状をしているのが判明した。
楽器――それも、クラシック音楽で用いられるような管楽器や弦楽器の数々だ。
禍々しい目や口、荒い線のような両手が付け足され、形を歪められた楽器の数々は、その光沢ですら歪に思えてくる。
「狙いが良く分かるな……!」
髭を生やした男がそう告げる傍ら、もう1人の若手が通信機に向かって怒鳴る。
「周辺地域の民間人の退避を急がせろ! 緊急事態だ!」
この短い通信から数秒後、ドーム周域に警報を表すサイレンの音が鳴り響く。
街灯の照らす真下の人混みにどよめきが走る。タイヤの付いた白い警備ロボットが彼らへと合流し、避難経路の案内を開始する。
警備隊達が視線をドーム上空に戻すと、楽器の怪生物達が力を貯める素振りを見せる。
これが予備動作だと見抜くのに、然程時間はかからなかった。
楽器の突撃と同時に、警備隊の1人が叫ぶ。
「来るぞぉ!」
押し寄せる軍勢に警備隊はそれぞれの得物を構え、その時を待つ。
ドームまで凡そ1.5kmとなった頃合いで、数々の点が光爆ぜて炸裂した。
ドーム周域の空に敷設された、魔法の空中機雷。感知した異物を轟音と共に爆ぜて破砕する。
機雷同士で誘爆する事は無く、怪生物の接近していた物だけが次々と爆発を巻き起こした。
そして、この爆発は直ちに花火へと早変わりする。安全地域に於いても視認できる騒ぎを『フェルク・レスタム』の一環だと思わせられるように。
警備隊の真下では花火に立ち止まろうとする人影がちらほら見受けられ、安全確保の観点から警備ロボットがこれを阻む。
対応に悪態を吐く者も出てきたが、「一時の感情の発露で済むなら安い物だろう」と真上から見ていた警備隊は受け流した。
再び視線の先を上空に戻す。1番外側の空中機雷による成果はまずまずといった様子だ。
程良く怪生物の数が減り、残った怪生物も少なくないダメージを受けたらしく、突撃の動きが若干鈍っている。
そこへすかさず、奇襲を掛ける新たな勢力の存在が見受けられた。
直ちに双眼鏡で確認する。肩にある記章の種類から、6番隊の面々だと見抜いた。
「もう来てくれたか!」
今現在北東方面からの発生のみが確認されており、近場であった北方面を担当する者達が4番隊の援護に入ったのだ。
怪生物の数の多さから、北方面を手薄にしてでも北東からの侵攻を抑える必要があるとの考えだと、4番隊の誰もが納得する。
そして、遊撃に入った6番隊を援護すべく、4番隊も動く。
6番隊、そして4番隊の魔法の行使により、魔法戦は警備隊有利の形で幕を開けた。




