第31話 フェルク・レスタム② 昼・望んだ『手掛かり』は向こうから
「ふゥ~~~~~ッ……今日の昼の部も終わっちまったな。曲聞く事意識してたらあっという間だった…」
昼の部から夜の部へ移る為のインターバル。これにより大勢が離れ、残った人々が点在するライブステージ。
中央ではドームのスタッフらしき人員の数々が、次の準備や調整に取り掛かっている。ふっくらとした観客席でくつろぐジン達の位置からはゴマ粒程度にしか見えていないが。
ジンの左隣の席に座っていた結華が、首だけを向けて彼に話しかける。
「お兄ちゃん。そろそろ…」
「あァ、ビラ配りだろ。頃合いだし行くか」
背伸びをした後、立ち上がり。ジン達が向かった先は―――――。
――現在、ドーム内で一番の賑わいを見せるショッピングエリアの大通りであった。
「すみませェん、人探しをしています! ご協力願えますかァー?」
「ごきょうりょく、おねがいします……」
ジンが声を張り上げながら往来する人々へ蓮音の捜索願を見せる傍ら、義兄の見様見真似で通行人達に同じ捜索願を見せた。
少々ながらビラを受け取る人は居たが、受け取ったまま立ち去るだけで何も言ってはこない。
奇抜な姿とは言え子どもが2人、人探しをしているという状況への同情によるものかも知れないし、あるいは、見せかけだけかも知れない。
だが、わずかでも手掛かりを持ってきてくれると信じて。愚直に続ける他無い。
そんな中、とある4人組がジン達の元へ姿を現した。昨日にも遭遇した、『オヒメサマ』達と付き添いのヨウヘイだ。
「アンタ達、ここで何してるのよ?」
『オヒメサマ』達の中で一番先頭に居るロギィがビラ配りの最中だったジン達へ尋ねる。
ビラを受け取られるか否かだけに集中していたジンは、その見覚えのある姿を見て安堵の色を浮かべた。
「あァ、ロギィか。人探しだよ人探し」
「人探しね……。その紙に描いてあるの?」
「うん。見ていって…」
ビラを結華から受け取り、ロギィが鱗の点在する手元に寄せた紙へ視線を落とすと左右からタルチとユドゥも覗き見る。
その紙にある似顔絵に数秒注視すると、彼女達は目を見開いた。
「え、知ってるわよ。レンネ、さんよね…」
「マジか!?」
「んぴゃ!?」
「急に叫ばないでヨォ、またタルチが喋れなくなるジャン…」
「あ、あァ悪ィ…」
予想外の方向からの手掛かりに、脊髄反射が出てしまった事を反省する。ジンはそれから話の続きをした。
「で、知ってるって言う事は、『魔深界』にレンネさんが?」
「いる…、というよりいました。6日程前の事ですけど……」
「確かに居たネェ。壊れた建物の修繕とか襲われた際の避難経路の連絡とカァ、色々面倒見てくれたネェ」
向こうでの出来事を思い出す彼女達に対し、次は蓮音が居なくなった理由を尋ねる事にするジン。
「んで、何でレンネさんは居なくなっちまったんだ?」
「……分からない。でも、『べモン・ベルス』の大量発生が関わっていると思う」
「くわしく…」
ジンのしていた質問に当然のように、結華も混ざる。
姉の『魔深界』での失踪に、地上界でも出現の頻度が増えている怪生物が関わるならば、尚の事気になるからだ。
「あの人、6日前に数千体の『べモン・ベルス』を1人で引き受けたのよ。あっちの都市部に発生していたあいつらを攻撃しつつ誘導して、ね。都市の外れに向かって1時間ぐらい後だったかしら。あの人の姿も魔力反応も何処にも無かったの」
「転移魔法の痕跡があったらしいネェ。自分から飛んだか飛ばされたカァ」
「復興に積極的だったから、飛ばされた方…だと思う」
結華と離れ離れになってから『魔深界』で活動しており、その『魔深界』からも姿を消した。
行方不明という結論に達するが、それでも手掛かりである事に間違いは無い。考えた上で、ジンは浮かんだ提案をする。
「なァ。結華を『魔深界』に連れていく、って事は出来ないか?」
聞いていたヨウヘイが驚き、『オヒメサマ』の3人は顔を見合わせる。それから理由を尋ねてきた。
「タルチの力なら出来る筈だけど…どうしてかしら?」
「レンネさんはユイカのお姉さんなんだよ。それに、向こうに行方を追う手掛かりがあるんならユイカも力になれる筈だ」
「わたしもそう思う…まほうはさいきんつかえるようになったばかりだけど」
ジンとユイカの意見を聞き、『オヒメサマ』達は再度顔を見合わせる。確認の意を込めたが、元より腹積もりは定まっていた。
「分かったわ。でも、『フェルク・レスタム』が終わってからで良い?」
「それって実際明日以降の話だよネェ、ロギィ。マァ、いつでも付き合うけドォ」
「私は必ず来ないと、だけどね……」
三者三様。だが、肯定的な返答である事に変わりはない。希望が一筋見えた事にジンと結華の表情は綻んだ。
「って事は協力してくれるんだな? 恩に着るぜ」
「みんな、ありがとう」
蓮音探しの方針がまとまった事で、他の話題を振る余裕が生まれる。ジンは『フェルク・レスタム』関連の話を3人にする事にした。
「そういえば、ドームには何時来たんだ? オマエ達も一般枠で入ったのか?」
「ワタシ達は招待枠よ。1日目からコッチに居たわ」
「ジンやユイカと別れた後にネェ。ゴハンはドーム外の店デェ、だけどネェ」
「伯父さんに頼んだらお金貰えて、それで予約して…。色んなアーティストの演奏見れて、良かったです」
「…なるほどなァ」
驚きつつも、市長室の一員であるヨウヘイが同行している事からジン達は納得する。
快諾した上に3人分の費用を出せる経済力を有するタルチの伯父が何者なのか、とか。よく悪目立ちせずに『フェルク・レスタム』ライブステージを楽しめたな、とか。疑問の余地はあるが一先ずは呑み込む。
ヨウヘイの周囲に妙な魔力の流れを感知し、ジンの勘が「すべきでは無い」と告げたからだ。
話を切り上げられる空気になった事で、ロギィ達はその場を去ろうとする。
「――この辺りで良いかしら?」
「あァ。ユイカの件は頼んだぜ」
「レンネさんが見つかると良いネェ」
「見つけられるよう、がんばる…」
「それじゃあ、ジンさんも、ユイカさんも。また後で……」
ショッピングエリアの大通りを去る『オヒメサマ』と、ヨウヘイ。彼女達を手を振りつつ見送った。
ある程度離れたところで、ジンと結華は顔を見合わせる。
「続けるか? ビラ配り」
「手がかりは、多いほうが良い。つづける」
「よし分かった」
結華の判断により、時折休憩を挟みつつもビラ配りを続ける。
夜の部開始までに結局、『オヒメサマ』達から得られた手掛かり以上の物を得られなかったが。それでも意義はあったとジン達は思うのだった。
――その一方で、外出禁止の指定時刻が迫ってきているのを頭の片隅に置きながらも。




