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雷帝と呼ばれた最強冒険者、魔術学院に入学して一切の遠慮なく無双する  作者: 五月蒼
五章 黒い霧

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化け物

すみません、一話漏れていたので「瞬殺」が追加されています(;'∀')

未読の場合はそちらをご覧ください。


 夜、リリベルの工房は静かだった。

 ランプの明かりだけが灯る中、リリベルは一人ソファに深く腰をかける。


 組んだ足の先が、苛立たしげに揺れている。


「……」


 取り込むとしたところで、明確な何かが思いついているわけでもなかった。

 ノア・アクライト。彼の本当のところの実力を、完全に測り違えていた。


 ただの調子に乗った一年生……誰もがそう考えていたが、少なくとも昼間あの闘技場に居た生徒たちで、あれを見た後でもそう言える人間は少ないだろう。


 キルシェはこの学院の二年でも上位の実力者だった。テトラルクスの選抜に選ばれたほどの。


 それを一瞬で。しかも――無傷で。


 キルシェはプライドをへし折られ、平民たちの士気はむしろ向上してしまった。


(別の手が必要ね……)


 リリベルが思考を巡らせていたその時。


 工房の空気が、変わった。


 明かりが揺れ、影が揺らぐ。

 ランプの火が消えたわけではない。


 ひゅぅと冷たい風が吹き抜け、空間の在り方が変わる。


 ――彼女が来たのだ。


「考えているようね、リリベル。可愛いリリベル」


 鼓膜を震わすように、彼女の声がささやかれる。

 だが、姿はない。


 どこから聞こえたのかわからない。背後でも正面でもなく、空間そのものから滲み出てくるような声。


 しかしリリベルは動じない。この気配には、慣れていた。


「――エスメラルダ」


 呼びかけると、目の前には霧のような靄が沸き上がる。

 そこに、ふっと黒い人影が浮かぶ。


 表情は読めない。姿もわからない。だが、確かにそこに《《居る》》。


「……キルシェが負けたわ」

「見ていたわ」

「ノア・アクライト……想定よりずっと強い。正面から潰すのは難しいかもしれないわ」

「そうね」

「…………」


 彼女は、リリベルが幼い頃にアナーシア家に接触してきた魔女だった。

 そして、リリベルこの学院に入学したことをきっかけに、二人の協力関係が始まった。


 彼女はこの学院という機構そのものに興味を持っており、そこで絶大な権力を持つリリベルはとても都合がよかったのだ。


 その権力も、エスメラルダからの支援の力があったからこそでもあった。

 その見返りとして、リリベルはエスメラルダへ学院の情報を提供したり、エスメラルダから学院への要望を、リリベルを通して実行させることで、この学院への関与を可能とさせていた。


 ――だが、その目的をしっかりと把握しているわけではなかった。

 それでも、彼女との協力関係が有効である以上、使わない手はなかった。

 いつか飲み込まれるかもしれないと分かっていても。


 エスメラルダは静かに言う。


「いい情報があるわ。特別よ、聞きたい?」

「もったいぶらないで頂戴、エスメラルダ。言いたくて出てきたんでしょう?」

「ふふ、その通り。いい、この情報は切り札になりえる。下手に使わないように」

「……あなたがそこまで言う情報なの? 一体どんな?」

「――あの少年が何者か」


 リリベルの目が細くなる。


「……聞かせてもらいましょうか」


 ええ、ええ、とエスメラルダは満足そうに甲高い声を上げる。

 空気がサーッと冷え、気配がリリベルの背後に回る。


「あの少年……ノアとは――」


「――冒険者、"雷帝"ヴァンよ」


「ッ!?」


 リリベルは思わず目を見開き、息が止まる。

 その言葉を理解し、言葉を出すのに数秒かかった。


「……雷帝って……あのSS級冒険者の!?」

 

 にわかには信じられない情報だった。

 SS級の冒険者。


 まさに伝説となっている人物だった。


 彼の活動期間は短かったが、通常の冒険者の数倍以上の功績を残し、瞬く間にSS級へと駆け上がった、史上最強の冒険者。


 この国で少しでも魔物と関わりのある人間で、彼の名を知らないものは存在しない。あの六賢者にもファンがいるという。


「ええ。まず間違いない情報よ」

「…………」


 だとすると合点はいく。

 公爵家令嬢とのつながり、A級冒険者であるクラリス・ラザフォードが従っている理由。

 そして、キルシェを瞬殺したあの魔術の実力。

 その情報が本当であれば、あまりにも当然の結果だ。


「彼にはクリスティーナが倒された」

「あなた達円卓の魔女のメンバーだったかしら」

「ええ。彼は侮ってはいけない。単純な策で飲み込もうとしても、それを正面からねじ伏せる力がある」

「…………」


 化け物――。

 そう評したことが、ここまで的を射ていたとは、リリベルも驚かずにはいられなかった。


 工房が静まりかえる。


 リリベルはしばらく黙っていた。

 やがて、口角がわずかに上がる。


「……なるほど。確かにとんでもない情報ね。……けど、使えるわね」


 エスメラルダは何も言わない。

 ただそこに立って、リリベルを見ている。


 その目が何を考えているか、リリベルには読めない。

 しかしリリベルは気にしなかった。


(この情報をタダで渡すほどエスメラルダは私を信頼していない。何か思惑がある。……けど、私はこの情報を使うわ。あなたの思惑がどうあれね)


 まず直接接触して、取り込めるか試す。

 それがだめなら……。


 リリベルは立ち上がり、窓の外を見る。


「まずは、直接話してみるわ」

「ふふ、好きにしなさい」


 エスメラルダの気配が、薄れていく。

 冷気が消え、元の工房の空気が戻ってくる。


 リリベルは一人になった工房で、冷たく笑った。

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