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雷帝と呼ばれた最強冒険者、魔術学院に入学して一切の遠慮なく無双する  作者: 五月蒼
五章 黒い霧

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対面

 キルシェとの代理決闘で圧勝した翌日、その話題は瞬く間に一年中に広まっていた。


 新人戦の優勝者が上級生の実力者を圧倒したと。


 その勢いは当然平民たちに希望を与え、また中立的だった生徒たちも平民を応援するような動きも見られた。


「まあ、俺はお前がキルシェが時にやられるとは思っていなかったがな」

「そりゃそうでしょ」

「お前を倒すのはこの俺だ。あいつは筋はいいが、チャレンジタイムを突破できなかった凡人の一人に過ぎん」

「一応テトララクスのメンバーだったって聞いたっすけど?」


 ドマはふんと鼻を鳴らす。


「ピンキリということだ。中には俺が認めるやつもいる」

「なるほど」

「まぁ、とにかくだ。余計なことに巻き込まれるのは程々にしておけ。せっかくの力が勿体無いぞ」

「そうしたいのは山々なんすけどね、なんせ向こうからやってくるもんで」

「はは、難儀だな。まあいい、せっかく巻き込まれるなら、より強くなれ! そして俺と最高の戦いをしろ!! それだけが望みだ!」


 ドマはガハハと高笑いする。


「別に俺は今すぐでもいいっすけどね」

「俺もかまわん――と言いたいところだが、悪いがまだ早い」

「?」

「お前とは然るべき舞台を整えて闘いたい。お互いが、負ければ全てを失うような、そんな最高の舞台を」

「………いいんすか、全部失っても」

「勝つ前提か、面白い! だが、そうでなくては面白くない! そうだろ!?」


 これが、対人線の極意……。


「そうっすね」

「ふはは! 意外とその時は早く来るかもしれんな、今から血沸く! それじゃあな、ノア・アクライト! まずは、目下の問題を片付けることだ」


 そう言い残し、ドマは満足げにその場を後にする。


「目下の課題ねえ」


◇ ◇ ◇


 翌日の昼。


 中にはの外れにあるベンチに腰掛けていると、背後から声をかけられた。


「少しよろしいかしら、ノア・アクライト」


 声派の主は俺の返事を待たず、正面に回る。


 長いブロンドの髪。切れ長の蒼い瞳。制服姿でなお圧倒的な存在感。


 噂に聞く、貴族派のリーダー。

 リリベルだ。


 周囲の生徒たちがリリベルに気づき、さっと視線を逸らしたり、小声で話し始めたりする。


 リリベルがこの学院においてどういう存在か、それだけで十分に伝わる。


「……絲姫っすか」


 本を棚に戻しながら、さらりと言う。

 このタイミングでの接触か。


「あら、知っているの」

「噂くらいは」

「そう。では話が早いわ」


 リリベルは隣に腰掛けて、中庭の風景を眺めながら静かに口を開く。

 まるで世間話でもするような、穏やかな口調だった。


「先日のキルシェとの件、見ていたわ。見事だったわね」

「そりゃどうも」

「あなたの実力は本物だと思っている。だからこそ、一つ提案があるの」

「知らん人から提案されるほど拗れたつもりはないんだが」

「これは警告みたいなものよ。ただ、メリットも欲しいでしょう? だから、提案」

「……」


 続きを待つ。


「――テトラルクスの個人部門、出たいでしょう?」

「まあ」

「私はこの学院の選考に対して、ある程度の影響力を持っているわ。あなたが出場できるよう、便宜を図ることができるわ」


 リリベルはそこで一度言葉を切り、俺の反応を見る。

 出たい……とはいえ、この提案の意図はなんだ?

 普通にしていれば実力で俺が参加権を勝ち取るのは自明の理だ。

 

 ということは、この場合は逆……俺が参加できないようにすることも出来るという脅しか。


「……条件を聞かせてもらいましょうか」

「賢いのね」


 リリベルは小さく笑う。

 

「念のためっすよ」

「条件は一つ。――あなたの周りで活気づいている平民たちを、大人しくさせてほしいの。ファンクラブとやら、解散させなさい。クロウェルとかいう子も含めて」


 やっぱりそれが目の上のたんこぶってわけか。

 通りで最近平民の悪い噂ばかり聞くわけだ。全部とは言わないまでも、いくつかはこいつの流した噂や誘導した結果ってわけか。


「俺にそんな権限があるとでも?」

「ないとは言わせないわ。あなたは今や平民の希望。あなたの一存でどうとでもなる、でしょ?」

「…………」


 実際、どうとでもなるのは想像がつく。


「この学院の秩序を保つために必要なことよ。あなたも別に、平民の権利向上だとか、そんな大層な野望があるわけでもないでしょう?」


 それはある意味で正しかった。

 確かに、そんな野望は持っていない。


「……確かに、俺にそんな大層な野望はないっすよ」


 俺はリリベルの方を向く。


「ただ、一つだけ聞いていいっすか」

「何かしら」

「あんたの本当の狙いは?」

「学院の平穏。ただそれだけよ。今の対立を煽られた構図は好きじゃないの」

「平穏ね……貴族が穏やかに居られる環境の間違いだろ」

「この学院の八割が貴族よ。そう置き換えても、遠くはないんじゃないかしら」

「…………」


 俺に取っちゃどちらでもいい問題だ。

 貴族がどうとか平民がどうとかどうでもいい。

 でも、あいつらの目を見れば、どちらの肩を持つのがよいのかは一目瞭然だ。


「――お前の目は、濁りすぎだ」

「え?」


 それに、俺はまだルルシアの件を許してねえ。

 どうせ親玉はこいつだろ?

 だったら答えは一つだ。

 

「提案には乗らねえ。悪いな」

「……理由を聞いても?」

「あんたが裏でコソコソしてたことがすべてっすよ。それに、俺が何かを強制する立場にはないっすから。あいつらが自分で動いてることに、俺が口出しする筋合いはない」


 リリベルはしばらくノアを見ていた。


 その目に、怒りはない。

 ただ静かに、何かが固まっていくような目だった。

 

「それに、初めからこの回答はわかってたっすよね」

「……そう。では仕方ないわね」


 リリベルは笑顔のまま立ち上がると、踵を返す。


「また機会があれば、話しましょう」

「あっさりっすね」

「えぇ。堂々巡りは好きじゃないの。それに、あなたは意見を簡単に変えるようなタイプじゃない。でしょ?」

「よくご存じで」

「ふふ、味方であれば頼もしい限りだったけれど、残念ね」


 リリベルは優雅に歩いていく。

 そして。


「――本当に残念よ」


 そう言い残し、その背中が校舎の壁の向こうに消えていく。

 俺はその後ろ姿を見送りながら、小さくため息をつく。


「やっぱり何か企んでそうだな……。面倒なことになりそうだ」


 まったく、俺はただ対人戦がしたいだけだってのに。

 強いのも考え物か。


「シェーラ、今になってシェーラが俺に匿名で冒険者をやらせていた意味が分かってきたよ」


◇ ◇ ◇


 工房に戻ったリリベルは、静かに椅子に腰を下ろす。


 しばらく窓の外を見ていた。


「……やはり取り込めない、か」


 ならば、答えは一つだ。

 力で勝ることが出来ないのなら、別の力をぶつけるまで。


 リリベルは机の引き出しを開け、一枚の紙を取り出す。

 エスメラルダから得た情報を、証拠として整えたもの。


 リリベルは、ペンを取った。

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