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雷帝と呼ばれた最強冒険者、魔術学院に入学して一切の遠慮なく無双する  作者: 五月蒼
五章 黒い霧

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ルルシアの覚悟

 演習場には、すでに人だかりができていた。


 噂というのは早い。食堂での一件はあっという間に学院に広まり、昼過ぎには野次馬がぞろぞろと演習場へ向かっていた。


 円形の演習場の中央に、ルルシアは一人立っている。

 その対面には、キルシェ。


 演習場の周囲を取り囲むのは、ほとんどが貴族たちだ。


「…………」


(なんでこんなことに……)


 ルルシアの指先が微かに震える。


 そもそも、ルルシアはテイマー。だが、肝心のフィンは治療室で眠っている。今はいない。


 つまり、一人で戦うしかない。


「さあ、始めようか」


 キルシェは余裕の笑みを浮かべたまま、魔力を纏い始める。


「ま、待ってよ、なんで私が……! 私はやってない!」

「言い訳とは……残念だよ。せめて覚悟と信念があってのことならまだ理解できたが……。君たち平民は最近問題を起こしすぎた。いい加減、大人しくしてくれないか」


 そうだそうだ!! と、貴族の観客たちが声を上げる。上級生も交え、それなりの数の貴族がその怒りをぶつける。


(だめだ……私の言葉が通じない……! どうすれば……わたしが……私が弱いから悪いの……?)


「この僕が、このふざけた騒ぎに直接終止符を打ってあげよう」


 真っ白な魔力が揺らめく。それだけで、周囲の空気が変わる。本気だ。これが一年でテトラルクス選抜に選ばれた男の魔力。


(……勝てるわけがない)


 絶望感が心を支配する。

 こいつが、私を無事に返すわけがない。


 あの時と同じ……。フィンと物陰に隠れて、反撃もせずただ奴らが過ぎ去っていくのをじっと待っていた……あの頃時と同じ。


(私は何も成長していない……あの頃のまま……)


 ――いや、違う……!


「おや……?」


 ルルシアは、構える。


(私は、ノア様から指導を受けた身……! あの頃とは違う!! ノア様が仇を打ってくれたんだ……私の村の!! だから、私は本当の自分に戻れた……!)


「恩人のノア様の顔に……泥濡れるわけないでしょうが……! 私はもう、逃げない。正々堂々、ここで戦ってやるわよ!!」


 迷いが晴れる。

 その顔は、覚悟を決めた顔だった。


 もう、怯えて隠れていた頃の自分はいない。

 たとえ、ここで再起不能にされようとも、


「よく言った! それでこそ、俺の教え子だぜ」

 

「!!」


 この――声は――!

 あぁ……あなたは、いつでもそうやって……私を……!


 客席の中央、入り口付近に、銀髪を煌めかせたたずむ人影があった。


 それは、何度も見てきた、憧れの姿で。


 私は思わず、彼の名を叫ぶ。


「ノア様……!!」


◇ ◇ ◇


 周囲には、恐らく貴族派の生徒たちが集っている。

 一人の少女をこの人数で囲むとは、趣味が悪いな。


 ルルシアが、中央で俺の名前を叫ぶ。

 俺を妄信ばかりして、あまり意思がないんじゃないかと思っていたが……少し見直したぜ。


「おいノア……やばいところに来ちゃったんじゃねえか……!?」

「帰ってもいいぜ?」

「! はん、帰るわけねえだろ。お前が何かするっていうんなら、俺が見届けてやらねえとよ」

「よく言うぜ」


 すると、後ろのニーナとクラリスが追いつく。


「気味の悪い光景ね。徒党を組んで、強くなったつもりかしら」

「……どうして……。貴族も平民も、違いなんてないのに……!」


 ニーナの悲痛な叫び。

 公爵家だからこそ、感じるものがあるんだろう。


 ニーナこそ、俺みたいな平民上がりとずっと関わってくれるような、平和の象徴だもんな。


 俺はさっと演習場に降りると、ルルシアの前に立つ。

 正面には金髪の、うっすらと笑みを浮かべた男――キルシェ。


「おや君は……あの事故の現場にいたかな」

「一年のノア・アクライトっす」


 すると、キルシェはわずかに目を見開く。

 そして、俺を上から下まで値踏みするように見る。


「なるほど、君だったか。……あの新人戦の。君が平民たちの言う”ノア様”というわけか」

「そういう呼ばれ方をしてるのかは知らないっすけどね」

「君については聞いているよ。僕たちの中でも話題さ」


 僕たち……。貴族派であることを隠す気もないな。

 なるほど、こいつらの本丸は俺か。


「そりゃありがたいっすね。人気者ってわけだ」

「はは、そうだね。新人戦程度で覇権を取った気でいる、面白い平民がいるとみんなで語り合っていたところさ」

「いい趣味してますね、あんたら」


 ふふ、とキルシェは不敵に笑う。


「で、何しに来たのかな。君の大好きなルルシアが制裁を加えられるのを見に来たのかな。いい趣味しているじゃないか」

「そんな分けねえだろ。なあ、この決闘……代理人を立てさせてもらっていいか」

「!」


 その言葉に、周囲から一斉に罵声が広がる。


「舐めてんのか一年生!」

「お前ごときがキルシェ様と戦える分けねえだろうが!」

「雑魚はすっこんでろ!」


 おー、すごい元気だな。


 すると、キルシェはまるで指揮者のように手を上げ、ぐっと拳を握る。

 すると、その罵声は一瞬にして消える。


「――いいだろう。手間が省けるというものさ。君を直接潰せば、変な幻想を抱く平民たちを一瞬で黙らせられそうだ。彼らの崇める英雄が、無様に地べたに這いつくばる姿を見れば……どんな信仰も一瞬で覚めるだろう」

「そんなことだろうと思ってたぜ。受けるのはいいが、後悔するなよ?」

「それは僕のセリフだよ、ノア。君みたいな、勘違いをする平民を多く見てきた。だが、どいつもこいつも口先ばかり……」


 そういって、キルシェは歩きながら続ける。


「貴族家は、長い時間をかけ研鑽し、積み上げてきた人々だ。ポッと出の君たち平民とは、その歴史が違う。そこに、畏敬の念を抱き、自ら手足となり働くという殊勝な感情が芽生えないのかい?」

「知らねえな、俺には関係ねえ。いいか、どこだってなんだって、最初の一歩を踏み出した人間はいるんだぜ。お前たちからすれば、自分の既得権益を脅かす周回遅れのプレイヤーかもしれねえけどよ」

「ふん、だったら、力を示せば良い。そのための舞台だ!」


 そういって、キルシェは構える。


「殺してしまえ、キルシェ! つけあがった平民に罰を与えろ!」

「生意気なガキだ、力の差を見せつけてやれ!」


 盛り上がる会場。

 こいつを倒すには、ちょうどよい。


「さあ、新人! お前に本当の魔術を教えてやろう。自分が今までどれだけ恵まれた環境にいたのか、思い知らせてやる! 震え、泣き出してももう遅い。せいぜい自分の無力さを呪うがいい!」


「しゃべってないでさっさと来いよ、キルシェ。俺がお前の力を試してやる。チャレンジャーはそっちだぜ?」


 その言葉に、キルシェの口角がわずかに上がる。


「……そこまで来ると、頭の出来を疑うな。ではいいだろう! 3秒も持たせん! 一撃で終わらせてやる! 身の程をしれ!!」


 キルシェの翳した手が、真っ白に輝く。


「――”ジャッジ・レイン”!!」

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