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雷帝と呼ばれた最強冒険者、魔術学院に入学して一切の遠慮なく無双する  作者: 五月蒼
五章 黒い霧

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ルルシア②

 フェンの仇! ととびかかりたい気持ちを抑え、私は横を通り過ぎるキルシェを、ジロッと睨みつけるだけに留める。


 向こうはこちらの視線に気が付くと、その場でくるっと向きを変え、私の方を向く。


「おやおやおや」


 わざとらしい声を上げる。


「これは、ルルシア君。先日は申し訳なかったね。何度もあの子のお見舞いに行こうと思ったのだが……どうもタイミングが合わなくてね。赦してくれ」


(はん、何がタイミングが合わないよ! 来る気ないくせに!)


 しかし、キルシェの周りを取り囲む生徒たちは貴族なのに、しかも年下に謝れるなんて素敵! と羨望のまなざしを向けている。


 ここで反抗すればこいつの思うつぼ。

 今はとにかく、さっさとこの場を終わらせる。


「……事故ですから、気にしないでください。来れるときで大丈夫ですよ」

「おぉ、なんと優しい。平民にも、そういった殊勝な人がいるんだね、自分の認識を改める必要があるようだ」

「まあ、そうですね」

「ふふ、少し心のつかえが取れたよ。……それでは、僕は食事があるので」


 そういって、彼はくるっとこちらに背を向ける。


「また日を改めて」

「……えぇ」


(……ふぅ。まったく。ばーかばーかばーか! 箪笥の角に足の小指でもぶつけろ!)


 精一杯の呪詛をその背中に投げつける。

 今も病室で眠っているフェンが不憫でならない。復活したら、一噛みするくらい赦してもらわないと。

 優雅で余裕のある貴族を演じてるんだから、それくらい赦してくれるよね?


 何が平民にも、よ! 偏見塗れの貴族のくせに! 心にもないことを。


 キルシェの周りには、さらに数人の取り巻きが駆け寄ってくる。


「キルシェ様、ごきげんよう!」

「今日もいい天気ですね!」

「キルシェ様、手紙がまた来ていました」


 取り巻きの意一人が、キルシェに手紙を差し出す。


「おや、ありがとう」

「モテモテですね!」

「そうとは限らないけどね。さて――」


 ふん、こんなののどこがいいのかしら。

 ノア様に比べたら、ただの木偶人形のくせに。

 

 ……いや、気にしてたってしょうがない。こいつのことは忘れよう。

 私は神経を食事の方に戻し、再開する。すると、直後に後方で悲鳴が上がる。


「きゃあああ!?」

「キルシェ様!?」


 思わずその声の方を見る。


 その騒ぎの中央に立つのは、貴族――キルシェ・ウェルムシアだった。

 キルシェは手についた液体を拭い、そのまま魔術を行使する。


 青紫色の魔力がほとばしる。


「その手紙から何が……!?」

「毒……だね。――やってくれるね」

「毒!?」


 その言葉に、周囲は一気にざわつきだす。


「毒……ふふ、この僕を毒殺しようとは、怖い物知らずが紛れ込んでるみたいだね」

「誰がそんな……なんてこと!?」


 毒殺だなんて物騒ね。

 けど、残念。どうやらぴんぴんしているみたい。誰だか知らないけど、どうやら私以外にも恨みを買っているみたい。

 影ながら、そのささやかな復讐者を応援したくなってしまう。


 ――しかし、その次に聞こえてきた言葉に、私は絶句する。


「紙に付着した銀色の毛……よく見おぼえがあるよ。こんな色の毛をした魔物に、僕はつい最近出会っていたね」


 銀――。

 私の全身の毛が逆立つ。突拍子もなかろうが、なんだろうが彼らにとっては別に良いのだ。

 いまこの状況――貴族と平民がいがみ合っているいまだからこそ、その疑惑は簡単に熱を上げる。


「キルシェ様への手紙だと思っていたのに……申し訳ありません! 私が中身を確認しなかったばっかりに……!」

「いったい誰が……!」


 キルシェがこちらを見る。


「答えはわかっているさ。僕を殺したいほど憎んでいる人物。そして、この手紙に紛れた独特な魔物の毛。鑑識魔術を使えば、これがどこの何物の毛なのかはすぐにわかる。――なあ、ルルシア」

「!!??」


 はっ……はあ!?


 身に覚えのない言いがかりに、私は思わず立ち上がる。


「そんなことしてないです!! 私は……!」

「言い訳はいいさ。君しか考えられないだろ? こんな証拠がある以上」


 キルシェは手に持った毛を周囲に見えるように見せる。


「その毛……あの魔物の!」

「やっぱり……」

「確かに、朝方この子を寮の近くで見かけたわ……! まさかあの時……!」


 随分と用意周到な周囲の声。朝なんて私はぐっすり眠っていた。

 ただ、確かに昨日は寮の同室の子が予定があると部屋を開けていたし、私が居たことを証明するものがほぼない。

 

 ……完全に出来レースだ。

 やってもいないこを、まさかこんな形で因縁つけられるなんて。


 しかも、なんで私に!? そんなにあの時の私の態度が気に食わなかったの!?


「知らないわ! 冤罪よ!」

「少し黙れ。……お前は誰に喧嘩を売っているかわかっているのか?」


 場が静まりかえる。


「私は歴史あるウェルムシア家、次期当主。我が家系がどれだけこの学院、そしてこの国にとって重要か理解しているのか? それを、お前は殺そうとしたんだ」

「…………」


 だめだ、話を聞く気がない。

 そうだ、これは最初から決め打ち……嵌められたんだ……。もしかして、フェンの事件から……?


「――だが寛容な私は、特別に君に挽回のチャンスをやろう」


 きた、これが交換条件……。

 すでに周囲はこの男の取り巻きで固められている。一体何を言われるのか……。


 キルシェは顎を上げ、見下すようにこちらを見る。


「……私は強い人間が好きでね。それがたとえ平民だとしても。――決闘だ」

「!」

「君の力で潔白を示してみろ」


 その宣言に貴族たちが盛り上がる。


「はあ!?」


 わかっているのだ、勝負にならないと。これは公開処刑だ。

 今までさんざん調子に乗ってきた平民を、公の場でぼこぼこに出来る。


 すべての空気が覆る。そして、貴族には逆らえないという空気が出来上がるのだ。


「チャンスをもらえただけでもありがたく思うと言い。だが、最近の目に余る平民の行いの数々……鬱憤が溜まっている貴族も多い。君のみじめで無様な姿を見たい生徒も多いだろうね」

「…………」


 なんで、こんなことに……。

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