紛争地帯にて(3)
さて、魔王と勇者は一週間ほどをかけて紛争地帯を見回った。
彼の想定に反して『人魔戦役』の時ほど残酷ないくさを行っている国はほとんどないようで、スゴロクは時の流れと人間と言う種族の根性に感謝し、己の恐れと無知と忌避を深く深く恥じた。
「やー、バルどんから話は聞いてまスよ。こんな隔絶された地域にようこそ」
今度と言わず会いに行こうとバルートに提案され、『逃げ腰ジャスティン』との邂逅もなった。
「バルどん……」
「僕のあだ名です。読んでくるの彼だけですけど」
丸顔の青年は肩をすくめるが、よほどの親友同士なのだろう、嫌な気もしていないらしい。
「ジャスティン殿は明るいな」
「よく言われまさァ。ま、『勇者』なんてな楽天彼の方がいいんじゃないスかね? 特にスゴロクさん、貴方みたいにマジメな『魔王』にとっては」
「いらぬ労苦を強いられる無辜の民にとってもそうだろう。輝くような貴公らの明るさは、きっと彼らを救う」
「や、こりゃお上手だワ。」細面の青年は頭を掻き掻き立ち上がる。「茶でも飲みながら話すとしますかい」
「二人とも疲れていよう。休息は惜しめ」
スゴロクは『物置』からティーセット(ダイス社謹製)を出し、西方の葉で茶を入れた。
「いい香りッスね」
「であろう。少しでよければ置いて行く」
ジャスティンは丁寧に礼を述べ、また茶を喫した。「変なショーバイだと思いやせんか」
「別に……良い事業だと思うぞ」
古式ゆかしく無辜の民にもちょっかいをかける兵たちから民を護り、戦闘区域とその他の地域を隔絶する特殊な結界を飛び越して安全な地域まで先導する。
勇者の冥利きわまる一大事業だろうと魔王は推測する。
「ただフシギなんスけどね……北方大陸の『魔境』らへんとかにも戦闘区域あるじゃないスか」
「うむ」
「うん」
その周辺を回って来たばかりのバルートとスゴロクは頷きあった。
「やたらと人が多いんスよ。どっかから湧いて出てるンじゃねぇか――っつったらスッゲェ失礼なんスけどね?」
「ふむ」魔王が眉を跳ね上げた。
人と魔の世界の共通項は意外と多いが、その最たるは不可思議な『温泉』の存在である。
「かの地域は、過去の時流や近い異世界とつながってしまっているのではないか。
実際、『隔絶』の向うの国々は異世界の技術をふんだんに取り入れているわけだし」
「あ~……、そうかもしんないスねぇ」
「はい!?」バルートが信じられないと言いたげに声を上げる。
「や、バルどんよ。俺だってバカじゃねぇさ。調べてみたことあるンだよ。資料として残ってる国の紋章、ほとんど見かけてるんだ俺」
思い当たる節がありすぎるのか、ジャスティンの軽薄な笑顔は引きつっている。
2016年 02月29日 11時40分 公開




