紛争地帯にて(2)
「魔界にも駒を用いた遊戯が?」
本来は戦いや旅よりも遊戯を好むのだろう、やたらと食いつきがいい。
「ある。配下の魔物を召喚し、駒の如く動かして戦うのだ。『魔王』級のヒマ人はすごいぞ、そのゲーム専用のドーム持ってる奴もいるからな……まあ余だが」
「『魔王』の遊戯は規模が大きいですなぁ」
「ああ。遊びなら楽しいからな。喧嘩も勝負もゲームも好きだ――だが、戦争だけは好かぬ」
もはやトラウマの域である。
『闇の森』で引き継いだ『魔王の力』に付随する膨大な記憶の中には、筆舌に尽くしがたい凄惨な戦争のそれがイヤほどあった。
現実として経験していないスゴロクにそのことについて言う資格はないかもしれないが、そんな彼だからこそ忌避するのだ。
「臆病な魔王だと思うか? 医術の『勇者』殿」
「そう蔑む向きもありましょうね。ですが、僕は貴方の考えに賛同します。戦争はそれ自体が悪です、忌避されるべき物です。無辜の民ばかりが害を被るのですから」
「いっそ敵役になるかと思ったこともある……が、そんなことをしても変わらぬだろうな」
深く息をついて立ち上がると、会戦後の医療キャンプをもう一度回った。
負傷兵や傭兵達は一様に苦しんでいるが、それを名誉なことだとする兵が多い。
理由を尋ねると、自分達がルールに則って戦うことで、凄惨な戦を避けられるのだと誇った。
統治者同士の諍いは尽きないが、民衆に被害が及ぶことが少なくなっただけでもマシなのだと。
色々な考え方があることを改めて実感したことが、決断して始めた戦場行の収穫であった。
「……バルート殿は他の『勇者』たちの事を知っているか。いくさに関わるような」
「知っていますよ。辺境の独裁国家を回って、戦争に関係のない民衆を避難させ続けている男が居ます。
紛争地帯は出生率だけがなぜか高いので、彼の役割に終わりはないのですが」
ここまでにしようという提案に従い、帰途を歩きながら話を続ける。
「勇者としては臆病者の誹りを免れませんが、人間として正しい姿だと思う。
彼も僕のすることを否定しないし、僕も彼を尊敬している。『逃げ腰ジャスティン』は、僕の良い友人なのです」
面白そうな奴だと笑い、ふと思いついて、「今度、余の国を人間界に移す。まだ場所は未定だが、どうにでもなるだろう。貧しき者や戦災に遭ってしまった者の受け入れ先がもしも必要であれば、連絡をしてくれ。そのジャスティン殿にも是非会いたい」
移動手段は『ワンダーダイス』社が何とかすると言い添えた提案は快諾され、スゴロクは安堵した。
うだるような夏の暑さは既に遠のき、深き秋の風が鮮やかに渡る夕暮れの道である。
なお、このあと魔王はいつものクセで思わず呟いた妻の名に思い切り食いつかれて、徹夜でノロケを語る事になった模様……。
2016年 02月26日 14時51分 公開




