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紛争地帯にて(1)

 曇天である。鮮やかな赤に染まった草原を、魔王は歩いている。

 うめく声を聞きつけては治癒ちゆ魔法をかけ、渇きを訴える者あらば即座に冷水や白湯さゆを配って回った。

「スゴロク殿! そちらの状況は如何いかがでしょうか!」若い男に「ひどいものである」と返し、伊達眼鏡だてめがねをくいと戻す。

 新たな役目が落ち着くまで魔界でがんばるのだと言っていたロデルはこの場にいないが、これをかけている間は冷静でいられる気がする。

「やっと追いつきました、スゴロク殿」

 ずんぐりむっくりした体格が特徴的な青年が、息を切らして駆けて来た。

「貴公が丁寧ていねいな仕事をされるからである。敬服けいふくあたいする」

 青年は丸い顔をわずかに柔らかくして礼を言い、すぐに引き締めた。

 彼――バルート=カリドは『勇者』である。であるが、魔王を倒すのが目的ではない。

 世界の紛争地帯を回り治療ちりょうを専門に行う医師団を率いる、異質なる勇者である。

 寡聞かぶんにしてその存在を把握していなかったスゴロクはそのことを深く恥じて、彼の旅程の一部に同行しているのだった。

 現在地は北大陸の『魔境』のさらに先……荒れ果てた大地に四つほどの王国が割拠かっきょする戦闘区域。

 半刻はんとき前に会戦を終えたばかりの荒野は踏み荒らされ、負傷者達の血で赤く染まっている。

 治療にひと段落ついたところで少し休憩しようと誘われ、医師団のテント内で話し込む。

「ここらは戦争のルールが守られているようで助かります」バルートは冷水をがぶりと飲んでから息をついた。

「ルールがあると仰るか? 詳しく聞きたいな」

「人間同士の戦争は回避されるべきですが、残念ながら異世界行いせかいこうの楽しみを知らぬ王や兵もたくさん居ります」

 世界を破壊しないための妥協点が、国際会議で定められたという。

 重火器類じゅうかきるいの使用禁止や兵役を全面的に志願制とすること、殺人や略奪りゃくだつを厳しく禁ずることなどなど。

もちろん従わない国もあるが、軍需産業ぐんじゅさんぎょうによってしか潤わない独裁国家には、国際会議も手を出せずにいる。

 何せ君主同士が時折『扉』を介して集まるに過ぎない小さな組織である。

 二百年間に及ぶ不断の努力によって各地域の対立や紛争は規模こそ小さくなったが、決してなくなりはしないだろう――というのが、バルート青年の見解であった。

「話には聞いていたが……余にとって戦争とはむべきものである。この身で知るのを恐れていた」

「そうでしたか。激しい戦争を経験されたのですか?」

「否」

 青年を真似まねてがぶりと水を飲み、「余は戦争をしたことがない。人形を用いて軍略を競ったりなどは、それこそ飽きるほどしたがな」

2016年 02月25日 15時42分 公開

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