雲の上に立つ者(2)
「まあ、これはこれでちょっと悲しいさ」
「すわ読心術!?」
口に出さず顔にも出さなかった感情を読み取られ、猫娘は頓狂な声を上げる。
「そんなトコかな。――けど、私のは確かに表立って英雄視できるような物語でもないし」
「物語をきちんと伝えられなければ、その後の『勇者』は困ってしまうのだな」
黙して観察に徹していたスゴロクが、考え考え言った。
「そゆことです。まさか生き残ると思ってなかったから? 悲しい美談として残ってるんでしょ。魔法生物って扱いキビシーんだよなぁ」
「ふむ……困ったものだな」
予定調和のバッド・エンドを根性ですり替え力ずくでねじ曲げて、かりそめの『勇者』は空の都市に足を踏ん張っている。
「消えて堪るかと思ってたから。この世界に誰かの犠牲の上で立つ物語なんか必要ないって、イズマが教えてくれたから。だから私はいま、ここに居るの」
魔王としても考えることや言いたいこともあるが、今は思考をぼんやりまとめている段階だ。
平生から頓狂なことばかり言っている(自覚だけはある)ので、ちょっと無口になってみようという腹づもりであった。
そうして歩く間も多数の人々とすれ違ったが、まともに話をしようとする者さえいなかったので、四人は仕方なくじゃんじゃん進んだ。
何も知らないだろう人間の子供たちが寄って来たくらいで、その子らも大人に叱られて申し訳なさそうに離れていった。
「ああクソ……! シャレんなんねぇな。あたしが居ねぇ間にどういう教え方したんだ一体」
イズマは長い髪を掻き毟って何かに耐えているようだった。有り体に言って一番『キレそう』なのは彼女だろう。
なだめつつ進むこと暫し。『上』で一番大きい城郭が目の前に現れた。
「王の城だ。代替わりしてるかもな」ここも顔パスで通り(さすがに衛兵は逃げなかった)、絢爛豪華な城を進む。
拒絶を示すかのように張られていた結界を叩き壊し、扉を丁重に開けた。
「っとっと! ゴアイサツじゃねぇか……」
鍛えられた近衛騎士たちは逃亡せず、勇猛に長槍を突き出して妨害してきた。交差させた槍が柵のようになっている。
事を荒立てる気は誰にもないので、大人しく下がる。
君主の人となりなど分からないが、やはり『滅び』をもたらした者に会ってやろうと言う若さは持ち合わせていないのだろうか。
「まともに相手をしてはおれん。様子を見ることとしよう」何にしても情報が要ると提案し賛同を得て、魔王は考え考え城を後にした。
2016年 02月03日 15時22分 公開
2016年 02月05日 13時35分 誤字修正