雲の上に立つ者(1)
南大陸のどこからでも見えるほど巨大な結界の遥か上空に、その地に所在していた都市が浮かぶ。
イズマたち地上の者が『上』と呼ぶ浮遊要塞都市ルフタリアは、事件から二百年あまりが経過した今、かつて持った航空能力を失っている。
『結界』を張るために建てられた四つの柱に鋼の糸を張り巡らせて自重を支え、今もって空に在り続けていた。
「さあ、参りましょうか」
『勇者』の強権をいとも容易く発動させたカーヤが、美しいかんばせをにっこりとさせた。
『上』と地上とは何重にも張られた結界で隔てられており、彼女は特権として結界を随時解除できるのだ。
ただの生物では触れることもできないと言われた(あとで調べたらそうでもなかった)邪悪な魔導兵器を起動させるべく、仮初の勇者は『上』と地上を往復して修行した。「バッドエンドの為にやり込んでるゲームみたいだった」とは本人が小さな宴会で明かしてくれた本心だ。
ゲームオタクを自称する彼女は、盤を用いた戦略ゲームでロデルと互角の勝負をし、すっかり打ち解けたようだった。
「相変わらず滅茶苦茶だね」
「私以上にメチャクチャなクセに何を仰いますやらね、リーヴィエラ博士」
「その肩書きは捨てたンだよ……さっさ行くよさっさ」
「二百年ぶりのーごあいさつぅ~」
なんだかよく分からない節をつけて愉快そうに歌いながら、カーヤは足を早める。少し後ろのスゴロクとロデルは、なんとなく圧倒されたような気分で雲の階段を進む。
ややあって、雲の階段が終わった。
「何者だ!」門番が二人一組で槍を構えつつ威嚇してくる。
「こういう者でございましてよ」
カーヤがブレスレットを見せると、要塞の門番達は顔を見合わせて黙り込んだ。背中の鳥の翼がはためくこと数回。
「げぇーっ! ほほほ『滅びの鍵』ぃーっ!?」鳥人の若者は槍を放り出し、めいめいに逃げ去っていった。
「なんと無礼な」
「ま、ま。こういう扱いで当たり前だよロデルちゃん。ハリボテでも、国ひとつ更地にしちゃったわけだし」
「だけど……」
「いーからいーから。進んでみよう、わくわくが止まらないのよねー!」
『勇者』ってのはどうしてこう明るい人たちが多いのかしらと内心首を傾げつつ、門をくぐる。
『上』と呼ばれるだけあり、鳥人が多いようだ。じゃんじゃん進むカーヤを目にしては飛んで逃げ回る。で、本人は落ち込むどころかげらげら笑い転げている。
この『勇者』が、人々に何も期待していないのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
2016年 02月01日 14時37分 公開




