作られた勇者(2)
3日後。第三の月が照る、しずかな秋の夜のことだ。
「イズマ?」
「やあ、居眠り姫」
「やめてよねそういうの。必要だったんだから」
「ははっ、ジョークだよジョーク。……おかえり、カーヤ」
「ただいま」
庭に程近いテラス席にいる魔王と側近は、彼女等の様子を伺おうともせず静かに向かい合っている。
むろん声は届いているが、邪魔をしたくないのだ。これは珍しくも魔王の提案であった。
「あのお二人のこと、見抜かれていたのですね」
「さすがに分かるさ」
昔に比べるとずいぶん感傷的になったという自覚はあったが、腐れ縁の悪友たちにも女性陣にも責められないので、これは良いことなのだと思っている。
「イズマ殿の情愛は……恋というよりは『母親』のそれにちかい、無償のものだろう」
『親子』という概念を、魔法生物は必要としない。最初から決められた姿で生まれ、人間や魔族の子供より早く成長し、大抵は与えられた役目に従順に従事する。思考や成長も本来は必要としない、とする学説さえあるほどだ。
イズムルート=リーヴィエラが、『殺戮兵器をわざと起動させる』ためだけに生まれた少女にどういう感情を持ったかは推測するしかない(訊くほど野暮ではない)が、垣間見える彼女の性格からして軽々しいものではないはずだ。
魔王はそう結論付けてみせた。相変わらず、他者の感情は明晰に見える男である。
「ではスゴロクさまは? いつから、わたくしを『女性』として見てくださっていたのですか」
「ふむ。やはり、お前が余の秘書として就いて。旅を考えるようになってからだろうな。『覚醒』を終えてもいないのに、ひどく眩く見えて戸惑ったのを覚えている――ロデルにしてみれば失礼極まるだろうがな」
「そう、だったのですか」
彼女自身、成長途上であることに気づいている。『覚醒』を終えておらず不安定な自分を、子供でなく大人、養子でなく恋人として見てくれることを、ロデルは手放しで喜んでいるのだった。
「あ、明日からはどうなさいます?」照れ隠しみたいに言った。
「彼女等が動けるようなら、まずは『上』を尋ねようと思う。用事もあろうし」
「承知しました」
夜の茶を楽しむ未来の夫を見つめながら、考えを巡らせてみる。
もっともっと……月光の中で踊り始めた『勇者』のように輝けたなら、その時に自分は目覚めるのだろう。
ロデルの心を、不思議な湖で見た幻影がかすめた。共に世界を駆け巡っていたのは、もちろんスゴロクと――そして、あと二人。
2016年 01月27日 10時38分 公開




