作られた勇者(1)
「あたしに身体強化を頼み込んできた。信用されてすっげえ嬉しかったのを覚えてる。当時の技術と材料ぜんぶ注ぎ込んで、それこそ『魔王』級のナイスな身体にしたさ」
指をパチリと鳴らす。床板が開き、鋼の階段が姿をみせた。いつぞやの高速戦艇を隠していたのと同じ技術だ。ついといでと促されるまま、二人は階段を降りる。
光苔の仄かに光る、幻想的な一室である。その中央に、純白の衣に包まれた若い娘が浮遊している。
「きれいな方ですね……」
「眠っているな」
「とっくに再生は終わってるが、起きてるのがしんどいらしくてね」
豪語するだけあって、『魔王』の身体だと言うのは間違いないだろう。肉体に、血に宿るパワーは、間違いなく己のそれと同じ――スゴロクは闘争本能の熱を感じつつも、おくびにも出さずにいる。
「起きたら『上』に行く約束なんだ。せめて一言謝らせる。そんで、ゆっくりねぎらってやるんだ」夢見るような口調で、イズマは言った。
魔王は、繋いでいる未来の妻の手が離れるのを感じた。掌を指でつついてくる。彼女がまだ心を閉じ、言葉を発さなかった頃に教えた、懐かしいハンド・サイン。
「イズマ殿。余計なことかと思うのだが……この娘さんはもう起きられる。残るは、貴女の技術があればどうにでもなる問題だ」
「わかってる。普通に起きててしんどいってのは、要はすげぇスピードで腹が減って動けなくなっちまうってことだ。で、アンタは珍品専門の商人だ。いくら吹っかけてくれてもいい――何か売ってくれ!」
蓮っ葉な言動の裏側に押し込んで、必死に隠してきたのだろう想いの熱さを、ロデルは看破していたのだ。
どうか頼む、と似合いもしない平身低頭を見せられては、鈍感な魔王も黙っていられない。取って置きの魔法鉱石を取り出す。
中央大陸の砂漠の町で譲り受けて以来、専用に作った『物置』の中で自然増殖を続けていた、莫大なエネルギーを秘める古代の逸品。
「げっ!? 『クレシェンディウム』じゃねぇか!」
「うむ。ひょんなことで譲り受けてな。こちらでも研究を続けているが、いやはや便利な石であるよ」
「であるよ、じゃねぇよ。どんだけカネ出しゃ買えるんだこんなもん」
「カネを出せとは一言も言っていないだろう」
「ぐっ……この……。何が欲しいってンだよ、じゃあ」言ってみやがれと鼻を鳴らし、腕組みして待つ。
「『上』を案内してくれ。むろん陸地と、『海』の方も頼むぞ」
「そんだけでいいのか」
「構わん。イズマ殿は南大陸に詳しいのだろう。ぜひ時間を割いていただきたいのだ」
「わかった。どんだけ歩くのか分からんが、あたしが知ってる限り案内するよ」
女は顔を上に向けて、遮光眼鏡をかけ直した。
2016年 01月25日 15時38分 公開




