雲の上に立つ者(3)
「ふむ。闇夜に魔王か……悪くないな」
深夜である。スゴロクは『上』の王立図書館に赴き、この国が持つだいたいの歴史を掴んでいた。
かつての『勇者』の存在は抹消され出来事は捻じ曲げられ、当時の為政者こそが国を救ったのだと書かれている。
ただ逃げ込み先を用意して、爆発の及ばない遠くに国を置いたというだけだが、それでは都合が悪いのだろう。
王室のシンパらしい学者が書いた本には、よこしまな実験を行った『魔王』を征伐したとまで記述されていて笑ってしまった。
そして現在。確かめたいことを確かめた彼は、黒龍の翼にものを言わせて、城の周囲を飛び回り観察していた。
昼間、謁見を邪魔してくれたのは、どうにも古老の将軍であったらしい。
「単なる拝謁を妨げるということは――今の君主に真相が知れるとマズいということだ」
まったく教えていないか、捏造した歴史を刷り込んでいるかのどちらかだろう。
戦役の後に生まれた若い世代がそんなことを気にするとも思えないが、歪んだ教育を施されているならば捨て置けない。
他者のためにばかり動いている気もするものの、今に始まった事ではないので放置して任務に集中する。
何も世直しを気取ろうというのではない、それは『勇者』の仕事だ。だが『勇者』たちが輝かねば、その影たる『魔王』もまた、ただ力を誇るだけの存在になってしまう。
それではちっとも面白くないではないか。
「ふむ?」
窓から見つけた君主の寝所らしき部屋には、厳重な鍵がかかっている。あるじは不在だった。
鳥人は飛ぶ時に、背中の翼と魔力を用いる。それぞれ違う色の魔力で飛ぶことも把握している。バルコニーにいる小さな姿を視認するのは簡単だった。
ちょっとしたイタズラを思いついたスゴロクは城で最も高い尖塔に停止すると、バサッ! と大げさな羽音をさせて人影の位置まで急降下した。「いけませんな、姫様。皆が心配しますよ」
「誰ですっ!?」
「冒険者でございます。同席のご無礼をご容赦いただけますかな」
背中に白鷲の翼を持つ少女は、「許します」愛らしくも気品ある声で許諾を与えた。
他の者のように逃げ出すかとも思ったが、流石にその想定は侮りすぎと言うものだった。内心で謝罪しつつ、スゴロクはバルコニーの縁に腰かけて月を眺める。
「何の御用です、不可思議な方……私たちに内心を見せぬことができる方が、まさか月見を共にしてくれようと言うのではないでしょう?」
「鋭い目をしていらっしゃる。では単刀直入にお話をさせていただこう」
「お願いいたしますわ」律儀に一礼して、少女は笑んだ。
2016年 02月05日 14時32分 公開




