戦いと傷跡
色々と貸し与えてくれた本や資料も参考に話し合いを進めるうち、新たな事実も判明した。
人間界暦で200年余前の戦役からこっち、「この大陸な。三つに分かれてんだ」女は平然と言ってのけた。
陸地と『海』は簡単に理解できた。『上』と呼んだ場所については「見せたほうが早い」とのことだった。
直接の原因は、人魔戦役で魔界側が用いた兵器――『滅びの杖』だ。杖そのものが莫大な威力を秘めた魔法であった。近くにいる者の魔力に反応し媒介として、当初人間界で最高の英知と武力を誇っていた国を丸ごと消し去ったというのだ。
ここから少し行くと爆心地が現存しており、よこしまな魔力による汚染のために近づくこともできないため、戦後の復興は爆心地を結界で覆うことから始まった。
「なんて酷いことを」
「ところがなロデルちゃん。あのバカ――あ、『杖』作ったワルい魔王のことね――の実験、上手くいかなかったんだよ」
その邪悪な兵器の実験は人間側の間者によって筒抜けであり、残虐な焦土作戦の血行日までもが正確に予期されていた。
知識人や魔導師、国王たちが団結して、被害が予測された地域を『まるごと避難させることに』成功した。大地に大穴は開いてしまったが、人的被害や生物の絶滅だけは免れたらしい。「でも、犠牲が出たことに変わりはないのでしょう」
「たはは……可愛い顔して手厳しいな。じゃ、どうやって克服したか見せよう」
魔族は短く鋭い詠唱を終えると屋根を指差し、「見てなぁ!」惜しげもなくドカンと一発、吹き飛ばしてしまった!
あっけに取られて見ていると、遠くに陸地らしきものが浮いているのがわかる。避難先は、兵器の爆発と破壊の及ばぬ、空の上であった。
「地面をまるっとくり貫いて、浮かせちまったのさ。徹底した作戦だった。ヤツにバレないように、浮かせたのと同じ都市群を一年かけて作り上げたんだぜ」
「強引な手法ですね……」
「結果としちゃベストだった。だが、アンタの言うとおり犠牲は出さざるを得なかったんだ。自分等のためにために目を瞑ったとしか思えんのが普通さね」
真っ赤な酒を呷って喉を潤すのを、魔王たちは静かに待った。
「バカの眼を誤魔化すためだけに、魔法生物を作ったんだよ。発動したと知れば、大喜びで魔界に帰るだろうと言われてたからね。
たった一人の女の子に『勇者』なんて役目を与えて、『杖』を起動させた」
淡々と語る。感情を見せないすべを心得ているようだった。
「つくづくバカな選択をしたもんさ。だが、犠牲となるべく作られた魔法生物――『勇者』は、滅びに抗って生き残った」
「ええっ!?」
「ほう!」
「せっかく助かる予定の『上』の人たちに罪悪感や責任を負わせちゃダメだ、って言ってね」
冷徹な表情と語り口から一変、女はげらげら笑い出しそうな顔で続ける。
2016年 01月22日 11時53分 公開




