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博士、登場

「そりゃ大変だったね。ギャーコを偵察に出しといてよかったよ。

ま、予想よか早く着いたのはさすがだけどねぇ……約3日でジャングル抜けるとかマジあり得ん」

 日も動かないうちにわざわざ出迎えに来てくれた魔族は、彼女の家で甘い菓子を給仕きゅうじしながら言った。

 スゴロクの仮説および分析は正しかったようで、南大陸には心理的な結界が何重にも巡らされていると解説もしてくれる。

「事前にきっちり調べなんだこちらにも非があろう。き進行も考え物である」

「どうだろ。調べても普通は分からんと思うわ。あたしは、あんなモンもう必要ねぇって口酸っぱくして言ってンだけどな」

 金属の光沢を持つ長髪をかき上げると、陽光を反射してわずかに虹を含んで見える。

黒い遮光眼鏡をかけ、手には葉タバコの詰まっていないキセル。黒シャツの上からジャケットを羽織はおり、わざと傷を与えた濃紺のズボンでキメている。西や北の国の若者が好んで身に着けていたのと同じスタイルだ。

 戦役以前からこの地にきょしていると言うわりに、中々ハイカラな女であった。

魔の民のファッションにも洒落や遊び心が必要な時代なのかも知れん、とか何とかよそ事を考えつつ、魔王は簡素な小屋を見渡してみた。

桐の切り出しの机の上には、三角フラスコやらサイフォンやらが並んでいる。薬品らしい包み紙もだ。「これを飲んでおきな」

 魔族はフラスコからグラスに注いだ薬品を「無害だから」手渡してきた。「むしろ、これがねーとウチの国に入れねえ? みてぇなモンよ。理屈はめんどくせーからパスな」

 不安げな側近に目配せを送って、魔王はグラスを一気に干した。精神に直接干渉してくる不快な魔力が、言下に退いていくのを感じる。

 猫娘は意を決したように頷き、魔王の真似をして一息で干す。困惑と悲嘆の色が徐々に薄れ、ほっとため息をついた頃にはすっかりいつものロデルに戻っていた。

 丁寧に名乗ると、形のいい唇が苦笑いをつくった。

「すまなかったね。……あたしはイズマってんだ。イズムルート=リーヴィエラ――ま、今はしがない薬売りさね」

 肩をすくめて遮光眼鏡を外すと、名前通りの美しい瞳が現れた。オアシスの緑。

「さて。スゴロクさんとロデルちゃん。アンタらの目的は聞いてる。あたしに出来る事がもしあれば、遠慮なく言ってくれ」

 少なくとも精神結界についてはどうにでもできると豪語ごうごして、女は笑む。

「では、レクチャーを願う」南大陸を行く前に、二人はその来歴を学ぶことにした。


2016年 01月21日 15時01分 公開

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