ジャングルを進め
東大陸において辺境と呼ぶべき地域は、意外なほどの広大さを持っていた。秋だと言うのに夕刻になっても日が高く、ときおり若雨が降るなど、温暖な都市部と比べるととても奇妙な気候をしている。なべて高温で、やたらと多湿なのだ。
ダイス社が生み出した高機能の旅行用ローブや魔王の結界がなければ、ふたりとて湿り気の牙にかかっているところであろう。
「絶対ヘンですよね、地域によって気候にこんな差異があるなんて」
「そうだな。社の人員を増やせば、各地を継続的に観測も出来ようが」
「募集広告でも打ってみますか」
「南大陸に着いたら、魔界と連絡を取ろう」
今後の事業計画など話し合いつつ秘境の奥地へと進んで行くと、狩猟の村の酋長が言っていた目玉スポット(もう少しマシな表現はないものか)にたどり着いた。
花の因子を持つ美貌の魔族が住む集落である。いかなる手段によってか話がわたっているようで、今回はいきなり歓迎ムード全開であった。
人間界のものとは思えない(失礼)果物やそれを用いた料理、デザートまでごちそうになった。
あちらの集落がハンター集団だとすると、こちらは造形師の集団だ。彼女等は恵まれた美貌にも増して美意識優れ、何ともオシャレな空間に迷い込んでしまった気がする。
「あら? 魔王どのはお嫌いですか、こういう雰囲気」
器用なことに現代語を操る女王は、美しい相貌を愛らしく崩して問いかけてくる。
「決して嫌いではないのだが……。どうにも場違いな気がしていかんのですよ」
「あ、すみません。どちらかというと女性的な容姿をしていらっしゃいますから、つい……」
照れくさそうに笑む女王のかんばせは、どことなく某勇者に似ているような気がする。
女性たちに囲まれ(遊ばれ?)て忙しげにしつつも同じことを思ったようで、ロデルと目を合わせると小さく頷いた。
例のごとくさりげなく尋ねると、
「ええ、私たちの祖先も人間界を放浪していたらしいのですわ。私たちはここに留まっていますが、各地に散らばっていているとしても不思議はございません。調査なりしてみると、おもしろいやも知れませんね」
おそらくは、ここが東大陸と呼ばれるようになるはるか以前の話であろう。
深く追求したい気分もなくはないが、別の機会を求めたい気もした。いまは背中を追い風が押してくるのだ。熱烈に、苛烈に――前へ、前へと。
さて、歓迎の茶会(宴会よりなんとなく洒落ていた)を終えるとさすがに日も暮れた。
魔王たちは美貌の魔族とオレンジ色の焚き火の前で語らいを持った。商人らしく珍品を披露・即売し、凝った意匠の装飾品や衣服、武具を買い付けたりもした。
狩猟民に比べて若干急進的な部分があるようで、ダイス社のことなどを告げると、「二、三人になると思いますが、是非とも職人を派遣させていただきますわ!」
花人族の女王は手を叩いて喜び、社員の雇用を求めてきた。案外したたかな種族である。
「心強いが……宜しいのですか?」
「花はその地で咲くが本分――といっても、咲いているだけでは陽の目を見られないかもしれませんわ。動くべき時に動かねば、失うものも大いにありましょう」
生き抜く術を、哲学という形で伝えて来たのだろう。魔王は内心舌を巻きつつも、「承知。面接などはありません、いつでも尋ねて来られるとよい」
ワンダーダイス最高経営責任者に話を通すべく書き付けを作った。、
2016年 01月18日 14時29分 公開




