魔王と勇者と(3)
「よかろ。特別だ、ギャラは要らんぞ」
愛剣の幌布を解きながら、歯を見せて笑う。
勇者は原野を踏みしめて後ろへ跳躍し、こちらも笑顔を咲かせる。「払えなくもないけど」
「おもしろい奴だ、『勇者』アンヴィシオン!」
「人のこと言えるのかい、『魔王』スゴロク!」
同時に抜剣し、撃ち合う。
片や『霧の森』の民が謹製の魔法剣『ソードオブオウス』。片や魔王軍近衛隊長が心を込めた魔剣『ワンダーダイス』。
込められた魔力と魔力がぶつかり合う。通常の金属では有り得ないほど高く澄み切った反響音。
ヒュッ! ザザッ!
たおやかな夜風を引き裂いて、勇者が躍動する。
キン! ギィンッ!
俊敏な獣の如く縦横無尽に動き回る少女の剣を、時にはいなし時には鍔迫って避ける。振り抜く一発がやたら重たい。小さな身体からは想像もつかない馬鹿力だった。
黄金の燐光を放つ剣はその膂力に堪えるどころか、更なるパワーを引き出しているように思える。
やっぱ面白れぇわコイツ――魔王はワクワクしながら激烈な攻撃を受け止め続ける。
「暴れないの!?」
「ジェシー君の時に少しミスったのでな! ロデルの大目玉は時々でよいのさ!」
「怒られたりするんだ、おっかしぃーっ! もっと聞きてぇぇ!」
「なら勝って聞き出すんだな! 3日でも4日でもノロケてやるわい!」
「おおっしゃあぁぁっ! ぜってぇ勝つぜぇぇ!」
小さなキッカケで発揮された爆発的な魔力に剣が共鳴し、龍の咆哮の如き唸りと衝撃波を上げて宙を切り裂く。
「おいおい!」魔王は瞬間移動魔法で攻撃の射程から逃れ、得意の魔弓を持ち出して撃つ。「何だその剣技ぁよぉ!?」
「ファルチェさんに習った! 古い龍族の技なんだってさ!」一瞬で防御魔法を展開し、魔力の矢を己の身体からそらす。魔族の使う体系化された魔法の中でも古く強力な回避魔法だ。ちなみにスゴロクの十八番でもある。
「何処で覚えたんだそんな上級魔法!?」
「エルヴェさんが以下略!」
「いい仲間だ!」
基本的にアウト・ファイターであるスゴロクは距離を適度に保ち、剣と魔法を巧妙に組み合わせて戦う。
遺憾なく振るわれる『魔王の力』を堂々と受け止め、楽しげに距離を詰めていくシオンは接近戦が好みのようだ。
澄み切った金属音を響かせては幻のように掻き消える魔王の分身術に業を煮やしてか、「このぉっ、魔王のクセにちょこまかと……逃げんなって!」シオンはわりかし無茶なことを言って挑発する。
「自分の得手で戦うことを覚えるんだな、勇者殿!」
にゃにおうと気色ばんだ少女は銀の短銃を取り出し素早く放つ。二丁拳銃で連射される魔法の弾丸を防御魔法で弾き落とした魔王は、その場で思い切り腕を振った。
龍の咆哮が空気を引き裂き、何条もの爆発的な放電を引き起こす。古龍族の剣術を、この男が知らないはずがないのである。
「ひゃあっ!? 出来るンじゃないか!」
「出来ないとは言っておらん!」
ズルいと叫んだ勇者も衝撃波を避け、姿を消す。「見えているぞ!」
「止まれるかバカぁぁ!」
上から襲い掛かる剣を、魔王は大音声を上げて弾き飛ばした!
「まだまだっ……」勇者は尚も負けを認めず、着地してすぐに素手でファイティング・ポーズを作る。が、魔王は剣を納めて距離を取った。
「ケンカおしまい?」
「女人を殴る拳を持たん。遊び足りないなら違う武器を使え」
「疲れるまで遊んでくれるんだね! ありがとう、スゴロクの小父さま!」
原野の岩を砕き荒地を抉っただけに飽き足らず、娘は次々と転移術の紋章を描いて物騒な武器の数々を取り出す。スゴロクは思わず「うへぇ、」と声に出して呟いた。
うっわーノリノリだよこの勇者。見ろよ目ぇキラキラさせちまってまぁ。と内心思ったところで、はたと気づく。そう、シオンの言葉には、聞き捨てならない語があった!
「誰がオジサマだ誰がっ! 魔王にしちゃ若いんだよこっちゃあ! 現役バリバリだっつーの!」
「だが僕は謝らないッ! わはははっ!」
小さな勇者とおちゃらけ魔王の激闘は結局、翌朝まで続いた。
2015年 12月31日 11時21分 公開
2015年 12月31日 11時23分 誤字修正




