魔王と勇者と(2)
「ふむ。善人ぶるつもりもないが……なぜか余の行く先には困っている者が多いのだよ。お人好しの性分でな、放っておけんのさ」
「うん、ロデルっちから聞いた」
「もうあだ名で呼び合っておったか」
「ふふん。僕だってけっこう人には好かれるんだぜー?」自慢げにニカッと笑って見せ、ふと真剣な目をする。
「ねえ? スゴロクさんはすごいね。肩書きに縛られないで、通った道が誰かの道になって」
「重いかね、『勇者』の名が」振り向いて問うスゴロクに、小さな勇者は頷いてみせる。
「僕はスゴロクさんみたいな大人じゃないし……エルヴェさんやファルチェさんみたく、強くもない。ハッキリした目標だって、今の『勇者』には決められていないでしょ?」
「当代『勇者』の事情は正直判りかねるが。貴公の才覚や勇気や実力は、『霧の森』にも公的機関にも認められている。それは揺るがない――貴公自身への評価である」
「うん。冒険は楽しいし、力とか武具の扱いにも慣れたよ」
言葉の割に、成長できている実感が伴ってこないようだった。最初に持っていた力が大きく、大きすぎたが故の少々贅沢な悩みだ。
「自由すぎるのも考え物であるな」
「そうだね。貴方は、最初からすごい人だったみたいだけど」
「一応、『魔王』とかいう肩書きも持っているしな。魔界の一国の王にしか過ぎんのが実態だが」
「そっか……そうなんだ」
スゴロクの期待に反して特に驚くこともなく、シオンは実感を込めて呟く。「貴方は、『魔王』。魔界の王たちの、ひとり」
戦わざるべきか――良き友である事を約束し、見守り見守られる奇妙な間柄の二人である。
戦うべきなのか――世界が古より持つ一側面の法則に則れば、正しく敵同士の二人である。
小さな勇者は僅かに目を伏せて逡巡する。
彼は『魔王』だ。そう名乗るだけの能力がある。由来がある。理由がある。資格がある。
そして僕は『勇者』だ。僕にはあるだろうか。『勇者』と名乗り、呼ばれるだけの資質が、自信が。
大きな力を扱いかねていたり、仲間に頼ったりしているだけなんじゃないだろうか。もしも、今この人と全力をぶつけ合う事ができたら……分かる事もあるのだろうか?
「魔王ならぬ貴方御自身――冒険者スゴロク殿にご依頼します」緊張した面持ちで問う。
「今から、お相手願えませんか?」
一瞬の沈黙が平原を渡った。
2015年 12月29日 10時43分 公開




