一難去って
「やれやれ、とんだ珍騒動になってしまったな」
「はい……わたくし、まだ納得がいかないとこもあるのですが」
ロデルは王に酌をしながら言った。「今となっては、それも些事……姫様方の無事を喜びましょう」
東国で起きたお家騒動は首謀者である摂政とナルタキ姫のお付きの老人、及びその一派の兵士たちが捕縛されて一応の決着を得た。内輪だけの宴が小さく催された、その翌日の夜である。
このたびの騒動は瞬く間に『東ノ都』全土に伝播した――主に悪漢の醜態が原因だ。
全部の小国から正体を受けたダイス社と『勇者』の一行は、この日の一日を使ってあわただしく国々を回ったのだった。
残った大きな問題は屋敷内に保管されていた、『魔王の力』が込められた魔導具だったが、スゴロクが知り合いの魔物に屋敷ごと持ち帰らせることで無事に片付いた。邪悪な力に地下深くまで汚染されていた土地は、北の魔導師国家の協力で洗浄を施す運びだ。
「万事、うまく運んだ。『勇者』殿一行と、我が誇り高きワンダーダイス社の面々……お前の力あってこそであった。あらためて礼を言わせて貰う、ロデル」
「光栄に存じます、我が王」赤髪の猫娘は、小さく尖った犬歯――牙を見せて笑った。半猫族の始祖である魔獣の牙が退化して遺伝したものだ。
この種族は元来おしゃべりで人懐こいが、気を許したものにしか牙を見せることはないという。
魔王としては心を委ねられている気がして気分が良い……なんてことは、口が裂けても言えない。こと恋愛について、彼は少年よりも奥手なところを持っている。
いつだか本人が口にしていたとおり、本能としての情熱を表に出し、ひとりの異性を独り占めにした経験など、あろうはずもないからだった。
「あら、スゴロクさま。照れていらっしゃいます?」
「う……、うむ。もしや顔に出ておるか」
「真っ赤になってございます。外の風にでも当たっていらしたらいかがですか」
約束もあるのでしょう、と悪戯に告げるロデルは、そういえばシオンととても仲が良い。
敵わんなとボヤいて魔力制御のロケットを預け、「すまぬが出かけてくる。お前も好きに休むといい」
明るい声に送られて、魔王は転移術を行使した。
2015年 12月26日 11時28分 公開




