勇者の愚痴
十五歳になったばかりだという小さな勇者は、黙って蕎麦をすする。酒でも飲みたい気分なのだろうが、良い子にヤケ酒を勧める趣味などない。
「とんでもないことになっちゃったな。もっと旅って……冒険って、もっともっと楽しいんだと思ってた」
「今回はたまたまだろう。冒険そのものの楽しみは、貴公も分かっているだろう?」
「そりゃ、……そうだよ。洞窟には必ずお宝があったし、おもしろいこともたくさんあった。いい人ばっかりに巡り会ったし」
「ならば、貴公は旅路に裏切られては居ない。世界は貴公を決して裏切らぬよ」
「そう、だね。僕は何も知らない子どもで……だから、すぐに分からなくなってしまう」
人のいい大将に蕎麦のおかわりを頼み、すぐに出てきた『冷やし』に東国のスパイスを振りかけて勢いよくすすった。
何に怒ればいいのかわからない――と言っているように、スゴロクには聞こえる。
勇者はソバを豪快に飲み下し、「なんかゴメン。聞いてもらっちゃって」少し落ち着いた顔で、言った。
「構わない。シオン殿は余の友人であり、ロデルの友人である」
「……ありがと。スゴロクさんは色々すごいな……ちょっと憧れちゃうかも」
「皆そう言うぞ」
アンヴィシオンは「だろうね」と涼しげな笑みを浮かべる。
「まあ確かに」おどけたスゴロクは、「常に憧れられる存在でありたいとは思うが」
「憧れられる存在、か。僕はなれてるかなぁ。……ねえスゴロクさん、これが解決したら、僕の依頼も受けてくれないかな」
「構わんが」と前置きし、「あの二人にも解決できん事なのか? 見ていれば分かる、よき仲間なのだろう」
「頼めば聞いてくれると思う。けど、ちょっと頼みづらいんだ」
才気と美貌に恵まれた生まれながらの『勇者』にも、尽きざる悩みがあるようだった。それでいい、とスゴロクは思う。『魔王』や『勇者』が感情を持たぬ駒でどうするのだ。 世界より任された我らの役割さえ本来は世界の多様性を示すひとつに過ぎず、その立場に縛られて生きるなどは愚の骨頂であろうと。
もっと色々な性格や行動原理を持った勇者が出てくればいい。それこそ勇者と冒険者の境界線を消してしまうような。
倒し倒される旧来の使命こそが枝葉ごとなのだ。――言うまでもなく些事である!
「……わかった。引き受けよう」懐中時計をもう一度確認して、「とりあえずはこの案件に全力を以って当たるべし」
「了解! さぁ、皆も戻ってくるかな」
「やたらとタイミングがいい時があるからな……ほら来た」
ドヤドヤ連れだってやってくる三人を出迎えるべく、魔王は魚のテンプラを追加注文した。
2015年 12月21日 11時36分 公開




