東方騒動急転直下
2日後。
このところすっかり贔屓にしているソバ屋で、魔王は勇者一行と合流した。もちろんロデルも一緒だ。
事態は急展開を見せたのだ。ナルタキは昨日、冴島惣次郎を伴って『都』へ舞い戻った。その割に皆が冷静なのは、姫が流麗な筆で書置きを残していたからである。
小さな君主の突然の帰還を喜んだ者たちは宴を開いて大騒ぎだったらしいのだが……。
「スゴロクさんの思う通りだろうね」シオンは腕組みをして言った。「摂政と爺さん、重臣の何人かは宴会に出てなかったよ」
やはりか、とつぶやいて苦笑する。「何を待っていたのかは知らんが、ようやく動くか」
「まどろっこしいよね」
「間に合ったと考えましょう」
アンヴィシオンと友誼を交わしたロデルはさっそく彼女と共に都の宴会に参加し、摂政側の人間をリストアップし終えている。兵を率いる者も幾人か加わっているようだ。
「結構な兵力であるな、ふむ……」
「少数で殴り込みでもかけますか」
猫娘のカゲキな発言を聞きとがめてか、黒髪の魔族エルヴェが苦笑する。「忍び込む方がいいんじゃないかな。私は隠れるのとか得意だ。たぶん役に立てる」
「戦うとなれば私が陽動をかけよう。こちらの力を見せつけることでもできれば、戦う必要もなくなるかも知れんしな」
半龍の戦士ファルチェも静かに闘争本能を見せる。
「剣を以って当たるならば自信はあるが……迷うところである」
魔族の威容を以ってすれば、不戦の勝利を得ることも不可能ではないだろうが……。
いかに決断の早いスゴロクであっても、事が東大陸を左右するだけに、迷わざるを得ない。
ソバ屋の大将(今度は店を貸切にまでしてくれた)がカモ蕎麦を運んできた。先ほど材料の買い出しに出かけた際にもらってきたと言うビラを見せてくれる。
「皆! これ……!」一読したシオンが、頓狂な声を上げた。
摂政たる名伏朧庵とナルタキ姫との祝言を知らせるビラだった。女性陣は困惑して絶句したが、魔王はひとり考え込んだ。
気ぜわしくも酒の用意など始めた大将を呼び止め、摂政の人となりなどを確かめる。
「ソバ食って待っててくれ」と言い残し、転移術で『都』へと急いだ。
暫時。
「戻った」スゴロクは頭を掻き掻き(ぜんぜん痒くない)席に就くと、「こうも思ったとおりだと調子が狂うな……」
蕎麦湯をすすって気を落ち着かせる。
「一体どうなさったのですか」
「ロデル、皆も驚かず聞いて欲しい。摂政は……人間ではない」
この場には人間以外のメンバーが多いが、それは重要ではない。「『魔王』だ。おそらくだが、南方大陸から落ちてきて根を張った奴だ」
祝言のビラを見て、どうもおかしいと思ったのだ。いくら何でも急すぎる、急ぎすぎている。もしやを疑うには充分だった。
スゴロクは変哲ない商人を装って東屋吉ェ門の口利きで摂政に謁見し、魔界の酒で機嫌をとって本音を聞き出した。
「奴は鳴滝姫が幼い頃から、彼女を自分のものにしようと狙っていたようだ。歯向かうなら殺してでも、という言葉が出て寒気がしたよ……」
南方大陸には他の何処よりも、前戦役の傷跡が生々しく残っていると聞く。人間界に仇なすような凶悪な『魔王』が幅を利かせていようと、決して不思議ではない。
「さて……どうするか」
「まずは都へ向かいましょう。戦うにしろ別の方法を取るにしろ、ここからでは余りに遠くございます」
ロデルは気を利かせたのか手筈を整えると言って吉ェ門の店へ向かい、勇者パーティの二人は「考えたい」と言って辞去した。
残ったのは、『勇者』と『魔王』の一対である。
2015年 12月18日 10時57分 公開
2015年 12月18日 11時01分 誤字修正




