東大陸ひと騒動(3)
店主が気を利かせて人払いをしてくれたソバ屋で話す事数分。
「事情は分かった」勇者アンヴィシオンは腕組みをしてしきりに頷く。
「僕らが手を出せる事じゃないかもだけど、キチエモンさんたちにはお世話になってる。できればナルタキさまとお喋りしたいなぁ、その辺のこと」
「うーん、うまく聞き出せるとは思うけど……こっちで情報集めたほうがいいんじゃないかい、シオン」
外堀を埋めたいという点で、スゴロクとエルヴェ、ロデルの意見は一致していた。
「『東ノ都』(アズマノミヤコ)へ行って、状況を見てくる必要があるだろうな」
ファルチェの呟きも的を得ている――手分けするのが一番早いが。
「大陸をまとめる宮廷なら達人が多いだろう……余ではケンカしたくなってしまうかもしれんな」
「マジでか……なら、僕らでミヤコの様子を見てくる。『扉』ですぐ行こう」
即動き出した『勇者』一行を見送り、全員分の勘定を支払った魔王は、側近と共に惣次郎の屋敷へ戻った。
噂の真偽を確かめ、万事に対応できる姿勢をとらねばならない。
「……真にござる」
やんわり尋ねると、若い惣次郎は渋面を作って頷いた。マゲを結わず縛って垂らした長髪が洒落ている。
実直で正直な冴島惣次郎は、感情を交えず知る限りの事情を話した。
ナルタキ姫の父母に宰相として仕えていた男が野心を発揮し、都合よく太守の座を退かせたこと。姫が歳若いことを理由に摂政となり、権力を振るっていること。
辺境の生産者や亜人たちを弾圧し、民の知らぬところで私腹を肥やしていること。
「拙者も、東ノ都の宮中までは知らぬ。知らぬが……碌なことになっておるまいな。腐っておる」
大陸一番の豪商である東屋吉ェ門が、わざわざ都から店を移してまで鳴滝姫のために尽力するのは、カネの力による宮中の腐敗と商人の横暴を止められなかった自責もあるのだろうと、冴島は言った。
「なんと痛ましき。だが、惣次郎殿……貴公が嘆かれることは無い」
「手を出しかねる身、おのれの女々しきことは承知しておりますが……」
「そのことを責めたりはせんし、責める者が居れば余が許さん。……それはともかくとしてだ、まずは姫のお心を慰めるが先ではないか」
でしたら、とロデルが口を開く何か考えがまとまったのか、「スゴロクさま、皆の力を借りると致しましょう」笑んで告げる。
妻の考えには乗ってみる事にしているので、魔王は大いに首肯した。
「タネも仕掛けもございますが、ネタばらしは後ほど」
「ま、悪いことにはならないさ。任せておきたまえ」
サムライの謝辞を背に離れへ向かい、預かることになってから設えたのだろう洒落た引き戸を引いて入室する。昼のうちならいつでも来いと許しを得ている。
2015年 12月14日 10時16分 公開




