東大陸ひと騒動(2)
「旅は如何かな」
「ん、順調だよ」
地図を見せながら経路をかいつまんで話すことには、どうやら中央大陸で修行して力をつけ、現在はこの東の地を拠点としているとのことだ。
冒険に鍛錬に遊びにと忙しくも、それなりに楽しく旅を続けているというようなことを言う。
「……ただねー……」勇者はちょっと困った顔で首を傾げた。
「有名な遺跡のほとんどに誰かの足あとがあったんだ。山とかにも全部、一本道が通っててさぁ」
……なぬ? スゴロクは眉を跳ね上げる。シオンは構わず、「あと、すっごい魔力も残ってた……魔物もなんか異様に強かったし」
あ、と声に出しそうになって、どうにか堪える。
「道しるべみたいに印も付けてあった。エルヴェさんが言うには、測量か何かの跡だろうって」
ロデルがハッと気づいて顔を見つめてきた。魔王も内心、蒼白の心境である――こ、これは……。
「噂になってた埋蔵品とかも、一回掘られてたみたいだし……ってスゴロクさん、聞いてます?」
「お!? おう、聞いておったぞ! 不思議な事もあるものだなぁ、はっはっは!」
「ま、まったくもって不思議でございますねぇ!」
東の治安などはまだよく分からないが、少なくとも中央大陸は概して平和な地域である。
強力な魔力の痕跡やクソ強い魔物などが存在するはずもない、力ある者にしてみれば取るに足らない(と言っては大いに語弊があるのだが)旅路である。
はずなのだ、本来は!
「本当に不思議だね、おふたりさん」低く柔らかい声が言った。「ま、私にはどーも心当たりがあるような気がしていかんのだけどもね?」
いつの間にやら――瞬間移動だ――卓に就いていた魔族が、犬歯を見せて笑う。この女が喋るのを初めて聞いた。
「え? 心当たりってどういうこと、エルヴェさん」
「ふむ。言うべきか言わざるべきか……ねぇ? フフフ……」
魔族は明らかにニヤついた表情でこちらを見つめてくる。完ッ全に勘付かれた!
「むぅ……」
「あ、あぅ……」
『魔王』は、存在するだけで莫大な魔力を放出する。彼が魔力制御装置を開発したのは中央大陸の調査に取り組んで暫くしてからのことだ。
旅が楽しすぎて、スゴロクはすっかり失念していた。魔族と同様に、魔物にも魔力を求める習性――本能があることを!
「っつかシオンよ」金髪の龍人ファルチェが、明らかにニヤつくのを我慢しながら質問を繕う。「理由とか知りたいか? お前さんにゃ、別に不満もないように見えたが」
「うーん? そう言われると知りたいような、知りたくないような?」
だったら今は気にするな、とかほざいて、龍人は杯を呷った。
助けられたようなそうでないような心境で、魔王は内心胸をなでおろす。
隣席のロデルがこっそり耳打ちしてくる――「スゴロクさま、どうなさるのですか」
「まぁ……面白そうだし、隠しておくこともないか」
「……?」
相変わらず美しい笑顔を少しの困惑と一緒くたに浮かべて、シオンは可愛らしく首をかしげている。
片や、魔王スゴロクはあらゆる場面で決断が早いのがとりえである。「よし、わかった。では……そうだな」懐中時計を取り出して月齢を確認する。もうすぐ第二の月――魔族のための月が照る週だ。ちょうどいい。
「先に片づけねばならん用事がある、報酬も出すゆえ手伝ってくれぬか?」
「ぜひ、よろしくお願い致します」魔王の意図をすべて了解して、側近も頭を下げた。
2015年 12月10日 10時08分 公開




