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東大陸ひと騒動

 よくある話だと思う。幼くして国主の座を継いだナルタキ姫に対し、古参の世話役が口やかましく接するというだけの構図だ。

 問題はそこにないとわかって、魔王と側近はますます顔をしかめる。「少々、根の深い問題ですね……」

 自ら成長を拒んで秘術を使い、幼児退行を起こしているとなると、まさしくロデルの言うとおりであった。

 一週間かけて他の小国を回り、丹念に集めた情報によれば、ナルタキ姫は今年でよわい十六。人気実力ともに君主である資質は充分持ち合わせているのだが……。

「重圧につぶされて子どもに戻っても、なお重圧をかけられ続けるとはな」

 単なる我儘わがままであると切り捨てるにはこくな環境に居る娘だ。幼い頃から帝王学を叩き込まれ、休日には欠かさず武術魔術の鍛錬たんれん。へとへとで寝床に入っても機械による睡眠学習。

ただ一人の君主だから仕方ないのだろうが、束縛が強い気もする。そのくせ現在の内政は摂政せっしょう任せと来ているから姫にはよほどたまるまい。

 町民らの話を聞けば一様に姫の心配をするから、人気は高いのだろう。摂政と老兵がつるんで姫をおとしめようとしているなどとうわさする向きもあり、余計にややこしい。

「絶対王政の限界……といったところか? 側近にめぐまれぬ君主もいるのだな」

「は……己の考えのみにて君主の動きを制限するなどは、常識が違うと言えども側近としてはでございます。なんとかして差し上げられないものでしょうか」

 表に出さぬ義憤ぎふんいかばかりか、いつも明るい猫娘の双眸そうぼうは今、釣り上がっていた。

「いっそ余が敵役かたきやくでもするか……?」

「敵の敵は味方で宮廷が結びつくか、それに乗じて誰かがクーデターを起こすか……。のよくないけかと思われます」

「だよなぁ……。発想の貧しいことだ!」思わず頭を掻きむしる。

 気分を切り替えようと街道に出る。初秋に入っている。深まる秋の日差しが心地よい。

 つらつら歩いて適当なのれんをくぐり、注文後すぐに出てきた麺類をおいしくすすっていると、「あーっ! スゴロクさんだぁぁ!」聞き覚えのある声が、広くない店内に響いた。

「おお! シオン殿と愉快ゆかいな仲間達ではないか!」

「お久しぶりー! 元気してました?」

ひとり椅子を立って駆け寄って来た小さな勇者に椅子を勧めようとして、気づく。

「ロデル=カッツェ。余の妻になる女性だ」

 良人おっとと同じく席を立ち上がった半猫は頬を染めてはにかみ、丁寧に一礼する。

「ロデルさん。シオンと言います、はじめま……って、ええ!? ちょお、まっ……! やだっ、スゴロクさんって婚約してたのぉ!?」

「うむ。間違いないよな? ロデル」

「はい、スゴロクさま。……僭越せんえつながら、婚約の儀をわさせていただいて居ります。以後、お見知り置き――いいえ」

 ロデルは言葉を切って優しく笑み、

「仲良くしてくださいね、シオンさん」

小さな『勇者』の手を取る。

 シオンは暫時ざんじどぎまぎして、「あ……う、うん、よろしくね」にっこりと頷き、ようやく席にいた。

2015年 12月09日 11時49分 公開

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