東大陸そぞろ歩き(2)
「そうそう……今どのあたりに居られるかまでは分かりかねますが、『勇者』のご一行様が休んで行かれたことがありますよ」
「おお、左様ですか。ぜひお会いしたいものです」
スゴロクは期待を込めて笑んだ。知り合いだろうというのは直感であり推測である。この場で口にするべき感想ではない。
よかったな、とロデルに目で伝え、「つい長居をしてしまいました。そろそろ出発しようと思います」
静かに立ち上がる。側近もそれに続き、同じく立ち上がった商人に握手を求めた。
「またお立ち寄りくださいませ。商人の組合に話を通しておきます」
「何から何まで申し訳ない」
「界隈で眼が飛び出るほどお買い物をしてくださいましたので。サービス第一でございますよ」
気のいい商人は、はにかんだ笑顔を崩さないまま、丁寧に一礼して見送ってくれた。
茶屋を出た二人は再び街道を歩き。東国に関する情報を集めていった。この慎重さは偏にロデルのおかげで、魔王は驚きと満足感を禁じえなかった。
「見習わねばならんな」
「趣味のようなものです、そんな大した物では……」
「ややもすると、急ぐ気もないのに急いでしまっていることがある。判断を急きすぎているのだろう」
スゴロクが定期的に発行する旅日記は大胆きわまる筆致で、その分だけディティールがぼやけて見えるところがある。
旅の速度が尋常でないゆえだろうが、帆にいっぱいの風を受けた帆船のような語り口が、ロデル自身は好みだった。――けど、恥ずかしいので言わない。
代わりに彼の手を取って、「こうすれば、ゆっくり歩けます」こう進言するだけで良い。
魔王は満足げに首肯し、妻の歩調に合わせて沿岸の地を見回る。
途中呼び止められたソウジロウというサムライの屋敷で麺類を馳走になり、子どもの遊び相手も務めることになった。
「鳴滝ともうす」多少舌足らずだがしっかりとした挨拶を受けて名乗り返すと、「おお! いま世界を回っておる商人がいると聞いたが、おぬしらか!」
緋色の生地に金のサクラを咲かせた優美な着物の少女は、嬉しげに手を叩いた。「『扉』でやってくる西の……ええと」
「ヴィルヘルミナ陛下ですね?」
「そう、『みぃな』殿じゃ。いずれ不可思議な商人が現れようと言うておられた!」
「左様でしたか。お待たせをいたしました」
まず少女は話を聞きたがったが、まさか『魔王』だなどとは名乗れないので、逆に相手のことを聞き出しにかかる。詳しく聞くと東国をまとめ上げる太守の娘(!)だそうで、今はこの屋敷に居候の身だと言う。
「惣次郎や吉右ェ門には迷惑をかけておる……わらわは、悪い子じゃ……」
「最初から悪い子など、どこにも居りませんぞ?」
「差し支えなくばお聞かせください、ナルタキさま」
ナルタキ姫は黒目がちの眼に涙を一杯に溜め、それでも気丈に話し始めた。
2015年 12月07日 11時44分 公開




