新たな勇者、登場!
さて、それから2日が楽しく過ぎた。
「いよいよですね、魔王さま!」
「うむ。睡眠は足りたか?」
「大丈夫です。わたくしはもう大人ですよ」
「そうであった。失礼な物言いだったな……許されよ、レディ・ロデル」
おちゃらけ魔王は側近の手を取り、うやうやしく接吻を落とす。
「ふふっ……スゴロクさまったら」
男は半ば本気だがそれはどうでも良し――今日あたり、例の人物が到着するという話である。
スゴロクから聞いて興味を持った魔法学園理事長がストーキングもとい正確な位置を把握して追いかけていたらしい。
「どういう方なのでしょうねー、わくわくしちゃいます」
「……ミシェーラさんと仰るそうですよぉ」階上から、春風のごとき声が降ってきた。
「うわっ! びっくりしたぁぁ!? もーフィーナさんひどい!」
「ふっふっふ~、私の勝ちぃ」
どういう基準で決めるのかは知らないが勝負がついたらしく、イルカ娘が悠然と降りてきた。
「出番は久しぶりな気がしますねぇ。温泉開拓にも結構がんばってたんですが。なんか盛大にはしょられた気がしてフクザツー」
サラッとメタ発言をしつつ、ふかふかソファに腰を下ろす。『ワンダーダイス社』最高経営責任者の任に就いても、のんびりとした態度は変わりようがないようだ。
「スゴロク様、どうおもてなしをなさいます~?」
「そうだな……初対面であまり派手にしても魂消るだろうから、有志でスキヤキでも囲むか」
「いいですねー。さっそく手配します~」
うきうきと肩を弾ませて駈けゆくのを見送り、「ロデル、魔法学園に顔を出そう」魔王もいつものローブを羽織った。
『都』一番のホテルから歩くこと少々。広大な面積を掘で囲んだ豪奢な建物が眼に入る。『王立魔法学園』のでかでかとした看板が眩い。
「ようこそ。と、言っても二度目かなスゴロク殿」
魔王と側近を出迎えた彼は、理事長らしい豪華な椅子から離れている。たまにはどっかと座っている偉いさんがいてもよさそうだがそれはさておき。
「件の勇者殿がこちらに直接来られるとのことですので、出迎えなどしようかと」
「ああ。すまないね、わたしの方で招待状を出してしまったんだ。何せ、『勇者』の認定を受けている人物にはなかなか会えないもので……ガラにもなく興奮してしまっている」
笑うように目を細めた『彼』は、もちろん人間の姿をしていない。もこふわの体毛、ずんぐりむっくりした体格。二足で器用に立ち、ステッキを携えている。
「分かるような気がします。私も、『勇者』と聞くとこう……沸き立ってくるものがあるというか」
そうだろ、などと盛り上がる男二人を、ロデルは微笑ましく眺めている。
そうしているうちに、控えめなノックが鳴った。「到着されました」
コートを羽織った獏は少々慌てて短く詠唱すると、かつて『勇者』と呼ばれた大魔導師の姿になり、「お通ししてくれたまえ」
気取った渋めの声で告げた。全盛はやはり青年期だったらしく、そういう声色がなんだか似合わない。かんばせの方は少々線が細く優男といった風体だが、充分に美青年と言ってよかった。
寸隙を置いて、かちゃりとノブが動く。「失礼致します」
「ご招待にあずかり、まことに有難うございます。不肖ミシェーラ=ロンド、参上いたしました」
「丁寧にありがとう。この魔法学園の理事長を務めている者だ。長生きしすぎて名は忘れてしまったが……。ま、『理事長』と呼んでくれればいい。遠路ごくろうさま」
理事長の労いに続いてスゴロクらも簡単に名乗り、挨拶を済ませる。ミシェーラは「宜しくお願いいたします」とスカートの裾を撮んで優雅に礼をした。
冬の日差しを透かす雪のような白銀の髪、角度によって濃度を変える青系統の瞳。
西国の近衛騎士と血が近いのかとも思ったが、どうも違う――魔的な美であると、『解析』の魔眼が魔王に伝えた。
ほんの二ヶ月ほど前に『勇者』認定を勝ち得たとかの雑談の中でシレっと尋ねる(スゴロクが十八番だ)と、
「半魔族なんです。ご存知でしょうか、蝶の一族……『魔境』でしたかしら? 実家はあのあたりらしいんですの」
「なるほど、それでその美貌ですか」
「まぁっ、お上手なのですね」
目を凝らすと、たたんだ状態の美しい羽も、長髪の間に見え隠れするふた筋だけ色の異なる髪も確認できた。
故郷についての話がぼやけているのは、最近まで一家そろって放浪の身だったとかの理由であった。これで疑問は解決したので、理事長と共に娘たちのガールズトークに耳を傾ける事にした。
楽しげに話す姿を一番いとおしく思うのだ、未来の妻の。
2015年 11月22日 10時26分 公開




