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魔王の誘い(1)

 3日後。

「ようやくひと段落ですね、スゴロクさま」

「ああ。ロデル、よく頑張ってくれた。礼をせねばならんな」

 依頼されていた開拓への助力をすべて終えた魔王は、側近と共に宿に戻ってくつろいでいる。

北の大地の夏の朝である。秋の如き清涼さと健康な日差しが心地よい。

「お礼だなんて。まずは軍の皆さんに賞与をきゅうしてあげてください」

「うむ。シリルから『欲しい物リスト』なるものが上がってきた。しっかりしたヤツだよ……」

 ここぞとばかりに様々な要請が書き連ねられているが、魔法学園の理事長とも友好が持てたので、物品の調達に関しては安心である。

「どうだった、人間界での仕事は」

「剣をってのことですから、いつもと余り変わらないとも言えますけど……。やっぱり楽しかったです。スゴロク様もいらしたし」

「ありがたいな、余には帰りを待っていてくれる者までが居る」

抱き上げてやると、羽毛か何かみたいに軽い。「わわっ……! びっくりしちゃいます」

 イヤなわけではないと言外げんがいに告げ、ロデルは背をもたれさせてくる。何より自分との時間を欲した未来の妻を、可愛らしいと思う。

 夏休みを取らないか、と聞いてみる。全軍には適宜てきぎ休息を許しているし、出張や冒険も自由。公式に期間を区切って休みを取るなどはしたこともない。

「夏休み、ですか」

「うむ。魔界はまだ烈日れつじつの日々である。折角に温泉地まで来ているのだし、この際どうかと思ってな」

「良いと思います。一月まるごと、こちらで過ごせるのって」

 元々が小さな国である。国民に長い公休こうきゅうはいし、『ワンダーダイス』の営業を縮小すれば何のうれいも残らない。

「観測の途中ゆえ余はときおり出かける事になろうが、それはそれ。皆々は何をするのも自由――余とて同行を断る理由もないしな」

「スゴロクさま、誘ってらっしゃいます?」

「どうかな。……ふふ、だがデェトにしては少々派手かも知れんぞ? 今からは船に乗って、東を目指す」

「船ですか!? すごい、大陸を渡り歩くなんて!」

 そういえばこの子が実際にそういう旅をするのは初めてだったなと、鈍感な魔王は思い出す。

 となると、冒険者の登録なども必要だ。この国で済ませて行けば早い。

「ま、しばらく準備の期間にしてのんびりするのでもいい。お前に会わせたい人物もたくさんいるのだ」

 連絡がつきそうな連中を思い返しつつ告げる。きっとロデルもすぐに仲良くなってしまうだろう。

「楽しみです!」

 自分が旅を選んだのは実は、この笑顔を見るためだったのかもしれない。

 そう考えるとなんだか頭がむずがゆくなってしまうのだが、旅程の長さに免じて己を許すことにする。

2015年 11月16日 11時47分 公開

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