北の魔境の洞窟で(1)
開拓予定のコースから少しずれた横道の先に洞窟がある。山深き場所の洞窟はじめつく鍾乳洞と相場が決まっているが、ここは少し違うようだ。
「狭い洞窟ですね……いかにも人工物って感じだし」
「さすが勇者の卵、冴えておるな。さてロデル、この建築資材を好むのは?」
「鋼蠍族ですか。ここに街が? いえ、このサイズは独居でしょうか……」
「さよう。ロデル相手ではクイズにもならなんだな。『居られるか』!」
スゴロクは大音声の古代言語を放つ。ずずず、と大仰な音が響き……。
『何だァ? 騒々(そうぞう)しいナ~』どこかで聞いたようなセリフとともに、小柄な魔族が姿を見せた。
「かかか壁から出てきたたた……」ルヴィが頓狂な声を上げた。眼を回しているらしい――ここでもまた、人の常識は犠牲となったのだ。
『壁にいて何が悪い。ひんやりしてよく寝れるんだよ』
腕組みをしてフンと鼻を鳴らした女(顔は笑っている)の腰元には、鈍色に光る蠍の尾が見える。
北方の『魔境』、山岳地帯に棲む魔族たちは、その他の地方にいるのと少し違う因子や外見を持っている者が多い。サソリ、カマキリ、蝶、蜘蛛といった具合だ。概して小柄だが、巨体を持つ甲虫の戦士の村もある。
準備期間として設けられた一ヶ月の間に、スゴロクは先行して彼らとのネットワークを張っていたのだった。
「『アギラ殿、お願いしていた件なのだが』」
『あぁ、構わねーョ。けど大所帯なんだってな』
「『すまぬが、そういう用件なのだ』」
『あたしに任せろっつったべや。ほーらョ!』
快活な気合の声を上げると、壁面に美しい文様が現れた。「……アギラさまは、王か何かで?」
様式は古いが、『扉』だ。
『ん、ちげーよ猫ちゃン。あたしはまぁ……王位継承者ってやつかな。例によって放棄してるけど』
からから笑って、『早く行こーぜー』さっさと扉をくぐってその向こうへ消えてしまう。
三人も洋々と(一人除く)それに続き、古代の街へ足を踏み入れた。地下の空気を好む鋼蠍族の街は、彼らの生み出した人工建築資材で形成されている。
現在は消息不明となっている『数列の魔王カリキュレイト』が基礎的技術を持ち込み、鉱物や金属に明るい鋼蠍が発展させた技術だ、と物の本に記されている。
『数列の魔王』にはスゴロクも出会ってみたいと思っているが……世界を旅していれば望みもあろうと言うことで、さして拘泥している様子はない。
2015年 11月10日 11時52分 公開




