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北方温泉開拓戦(2)

「何のてらいもなく言ってのける……やはりついてきて正解でした」

 早速に嘆息たんそくするのは、魔導王国が誇る『勇者』のタマゴの一人である。魔力を充填じゅうてんさせることで様々な魔物に威力を発揮する魔法剣を手に戦う、魔法学園のエース。

 『魔王』夫妻を冷やかしてもこなかったのは、彼女は彼女で戦っていたせいである。集まってくる魔物は弱いが、何せ数だけは魔王軍をも圧倒している。

 娘は魔王に剣を差し出し、「ちょっと試したいんですが、構いませんか」

「剣が壊れぬなら構わん」

 魔物をり続けた剣を魔王が掴むと(刀身なので良い子はマネしないように)異様な魔力が充填される。

「げ」

 白銀の刀身はあやしく燃える炎のようなオーラに包まれ、その属性ごとへんじたかのようである。量産体制に移行する段階の一般的な『魔法剣』は、魔王の力を得た本物の『魔剣』となった。人間界の常識は犠牲ぎせいになったのだ――。

「まぁ、こうなるわな……」

「わたくしも欲しいですっ!」

「依頼を果たしたらな。働いてからの方が飯が美味うまい」

 スゴロクが彼の軍と共に魔導大陸の奥地まで繰り出してきたのは、北の国々からの連名れんめいの依頼をこなすためである。じっくり探す予定だった温泉地はアッサリ教えてもらえ、大所帯おおじょたいのためのキャンプ地まで用意された。

 依頼書にいわく、温泉地をさらに開拓したいとの少々漠然としたものであった。

 大陸随一と言われた『魔導の勇者』は一線を退しりぞいてお、現在は別方面の作戦を展開中だ。

「とりあえず予定地の半分といったところでしょうか」

 この分なら楽ですね、とうそぶきつつ、小さな軍師は夫が書いた見取り図を確認する。鼻歌でも歌いだしそうだ。

「理事長の方も順調そうですねー。大規模結界の敷設工事、今日の分はほぼ終わってます」

勇者のタマゴことルヴィは、懐中時計を取り出して言った。

 魔法と機械を組み合わせた連絡装置で、時刻のほか強い魔力を感知・表示することができる。スゴロク達の使う『網』と似たようなものだ。

「よい進捗である。どれ、ここらで休息と致そうか」

「こんなところでですか?」

 ルヴィの疑問もむべなるかな。あらかたの魔物は片づけたとはいえ、ここは北の大陸でも『魔境まきょう』と呼ばれる山岳地帯である。

「ま、余について来れば分かるさ……ロデル、軍の皆に一時待機の周知を」

うけたまわりました」

「頼む――では参ろう」

 冒険者の顔に戻った魔王は、杖を一本(激安セール品・魔力注入済み)突き立ててから悠然ゆうぜんと歩を進め始めた。

2015年 11月09日 12時00分 公開

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