皇帝の怒り
「おーっと、やるじゃねのよ」
「お前、少しは使えるのか?」
すり足で歩み出てきた中年の騎士は「本職は軍師だけどな。まぁしょうがねぇや」煙草をふかして剣を構える。
本当に使える男のようで、魔王がようやく引き抜いた短剣を一合も二合もいなし、切り結ぶ。
「悪いな――あのオッサンのせいでいろいろ台無しだろ」後ろに逃げた小太りに聞こえない声で囁いてくる。
「ああ。まあ心配はいらんよ、ある程度は覚悟している」
「そいつぁイイね。だが、この国にゃヤツみてぇなのがゴロゴロしてやがっからな……もうちょっとだけ、『ワルい魔王』やってくんね?」
よかろう、と口角を上げ、音高く相手の剣を折り飛ばす。
「悪役ってな、けっこう楽しいしな――こんな風によぉ!」
魔王ついには哄笑を上げ、使える限りの魔力を振るう。呼び出したのは誇り高き魔王軍……の幻影である。
半狼の将軍ヴォルフガング、半熊の副隊長ベルンハルト、鳥人部隊長グィスパ、第二魔導師部隊長ライザ。
威容は充分だが虚像の腕には何の武器もなく、ただ腕を組んで立っているだけだ。
その姿を見ただけにも関わらず騎士の殆どが恐怖で逃げ出し、ようやく魔王は小太りの指揮官に肉薄する。
恐慌を来した小太りは最新式の銃を取り出し――。
「もうよい! いい加減にやめよッ!」
皇帝の一喝を受けて取り落とす。
「これを見て猶、戦争どころか私闘にもならぬが分からんか!?」
女帝は激していた。憤然と立ち上がる。「音に聞く『魔王』足る者の力を、かくも侮りおって!」
果敢にも『魔王』へ挑み倒れ伏した若者らを助け起こし、つかつかと歩みを進める。
若き皇帝はへたり込んだ小太りの襟首を捕まえると(恐ろしいことに片手だ!)一息で立たせ、
「元老院議長の職を解く。このヴィルヘルミナと戦いたくば、紛争地帯の馬鹿者共にでも頼むがいい!」有無を言わさず『扉』を出現させ、その中へ放り込んでしまった。
皇帝たる者の怒りの発露はそれで終わった。速足で歩いてスゴロクとの距離をつめ、
「申し訳ない!」これだけは瀟洒な絨毯の上に躊躇いもなく跪くと、長い髪を床にたゆたせてひれ伏す。
手を上げられよ、と魔王は困惑気味に言うが、首を振って肯んじようとしない。歳若くも誇り高き皇帝は、言い訳ひとつもせず頭を垂れ続ける。
2015年 10月26日 10時18分 公開
2015年 10月27日 10時37分 誤字修正




