小競り合い
「どこでどう情報を仕入れたのやら」
謁見の間にずらりと勢ぞろいした騎士たちの勇姿を平然と眺めて、『魔王』は肩をすくめてみせる。
「さて……どういうおつもりかな」人の壁に隠れた指揮者へ、通る声で問いかける。「できれば荒っぽいことはしたくないのだが」
髭を蓄え始めたばかりと言うような顔の小太りの男ががなるところによれば、帝国に魔族が紛れ込んでいる現状とそれを許容する皇帝のやり方に不満があるそうである。
「余が来たからと言って何だと言うのだか――それとも、貴君は魔族をお嫌いかね?」
ご高説の続きを促すに、どうやら昔懐かしくも不自由で一方的なイメージに基づいて、種族差別的思考を肥大させていった人物のようだ。
戦役終結よりはるか時を経ている現在では逆に保護ものの考え方であった。
男は偉そうに自分の名前を何度か言っているが、スゴロクの耳には届かない。最新鋭の装備を集めるのに苦労したとか、渋る騎士団を懐柔して、陛下の御為に――とかの言葉も。
ヴィルヘルミナは動かない。すぐに結界を展開した側近の手を、強く握っているようだ。スゴロクの背中から、かすかに歯噛みする音が聞こえた、
貴女はそれでよい――笑んでみせてやりたくもなったが、そうもいかない。
なおもやかましく怒鳴り散らす男をひと睨みし、両手の指をコキポキと鳴らす。大げさな身振りで片腕を横に構える。手を出すな、と言外の意思表示。
魔力制御装置の調子を確かめてから、「さっさと戦ろうぜ、カタブツ爺い!」悪い顔で挑発した。
繰り返しになってしまうが、『戦役』終結後すぐに生まれ、人間界の暦で言えば二百余年を生きていると言っても、『魔王』たる種族としてはまだまだ若いスゴロクである。
自分からケンカを売るほど狭量ではない。謂れなく剣を向けられて黙っているほど老成しても居ない。
平生は温和そのものの彼をして怒らせた小太りの男の名も、すぐに忘れるだろう。
かかれ、と言われてから騎士団は動いた。優秀であっても『勇者』ならぬ身には荷が勝つのか、おっかなびっくりで一人ずつかかってくる。
団長クラスは居ないようだ――素質は充分に感じ取れるものの、熟練の力も老練な魔力も察知できない。
一人目の剣を素手で掴み、へし折る。掌底一撃、鎧ごと壁に吹き飛ばす(ちゃっかり結界つきで)。
続いて裂帛の気合がふたつ届く。双子なのだろう、よく似た背格好の魔法剣士が斬りかかってくる。電光よりも素早く背後に回り込むと、強力なマヒ魔法でその場にへたり込ませる。因みに動きとしては頭を軽く撫でてやった程度にしか見えない。
勇猛に撃ちかかってくる少年騎士のグレート・ソードを低く跳躍して避け、脚にわずかな魔力を込めて蹴り砕く。
半ばパニックで掛かってくる重装兵をまとめて吹っ飛ばし、「どうしたっ! さんざか煽っといてこのザマか!?」声を張り上げ、魔導師らの魔法を弾き返す。当座攻撃できるだけの魔力を吸い上げてやると、新人らしい彼らは全員青ざめて転移で逃げていった。
徐々に徐々に、小太りを囲む者たちに近づいていく。悪役って超楽しい、とか思ってるのは当然秘密だ。
2015年 10月23日 12時00分 公開




