徒歩の道行き
ある程度の案内はできると言うので、二人の好意に甘える事にした。「まこと有り難きことなれど……出かけてしまってよかったのかね」
「ええ、問題ありません。関所の官吏の子って、正直することないんですよ」
「冒険者になろうにも腕に自信がなくて……二人が二人とも、マジメなだけが取り柄で」
似た者同士の夫婦は長続きする、とからかい半分に助言してやると、同時に顔を真っ赤にしてしまう。ひとしきり笑ってから話の続きを促す。
高級官吏の子女らしく学はあり、各々の話し方で、概ね平凡に過ごしてきた旨を語った。日常に退屈するほど傲慢な性分ではなさそうだが、帝国学府をそれなりに苦労して卒業しただけに目標を見失っていると見受けられた。
少年――ルロイは、「贅沢な悩みなのは分かっているのですが」と、癖なのだろうため息をつく。
スゴロクはこういう場合の人の心の機微にまだ疎い部分がある。だが、理詰めで考えれば理解はできるようになってきた。
「学府でする勉強は、与えられる学問だからな。師があり、時間を決め、目標を決めて取り組めば良い」踏み心地のよい砂道を行く。さくさくと、「たとえば――これはどういう技術で作られた道であるか?」進めていた足を止めて振り向き、問うた。
「浜辺から砂を取ってきて、魔術で粒子を細かくしたものです。歩き心地は上から3番目、と言われています」
「完璧な答えだ、ラウラ。そして……ここまでが通常の学問」
したり顔をわざと作り、「これなる道の材質を作ったものは誰か、どういう人物か。気になったことはないかね?」
二人の顔に驚愕と動揺が広がる。盲点だったようだ。
余は学府を出たわけではないから分からぬが、と前置きして、
「友や先達や後輩に冒険者を志す者は居なんだか。師に当たる人でも良い。独立して旅をする者がいるのではないか」
引きこもっていた間のノウハウ(?)が役に立つとは思わなかったが、いながらにして情報を得、知識を深める方法を披露してみせる。
スゴロクの治める国では国民一人一人が精強無比、しかもヒマ人ばかりだったので、わざわざ『魔王』が城を出ずとも済んでいたのだ。
同じようにするわけにも行くまいが、幸いルロイもわりと顔が広いようで、「なるほど……」納得顔で頷いている。
「そういうことって、頼んでもいいんですね……」内気なラウラは、なんて惜しいことをしていたんだと言わんばかりである。
「冒険者は依頼を受けてなんぼ。まあ色々試すに越したことはないぞ」
区切りのいいところで歩みを再開する。やがて舗装路が途切れると、また小さな建物があった。
「物見やぐらみたいなものです」
「展望台って言おうよルロイ……」
中央に魔術で制御する巨大なレンズがどどんと置かれ、あとは自由に使えるスペースとしてあるようだ。
決して広くはないが、かまどやらカウンター、テーブル等……そういえば外に井戸もある。帝国と騎士団領を繋ぐ旅路の休憩所としてはふさわしかろうと思えた。
「どれどれ」スゴロクが展望台のスイッチを押すと、
「うわっ!」「ひゃあ!」
彼の魔力が(抑えているのに)強すぎて、壁一杯に景色が投影された。
「これはおもしろい」
騎士団領が掲げる10の旗どころか、周辺の森林や鉱山、かなりの距離にあるらしい大きな湖まで見通せた。「案内の必要がなくなってしまったような」
「遊びに行くと思えばよいではないか。騎士団領とておもしろき地なのだろう」
冒険に必要なのは少しの実力と、彼我の戦力を測る冷静さ、そして、何よりも自分の思うままに行動する気まぐれさなのだ。
特異なる冒険者は、何らもためらうことなく言い切って見せるのだった。
2015年 10月17日 11時30分 公開
2015年 10月20日 10時33分 誤字修正




