酒盛り
「つ、つかれたぁ~」
「ウィノナ、根性が足りんぞ」
「そんなぁ、ミーナさまのいぢわるぅ」
冒険者はもちろん皇帝以下の騎士団までもが御用達にする大きなバーで、見目麗しいふたりの娘が話に花を咲かせている。
もっとも、一方はグダグダでカウンターに突っ伏し、もう一方は元気そのもので酒を傾けているが。
「シュカ殿」
「はいな~」
「アレ、本当に皇帝と側近か?」
なぜかカウンター奥に回ったスゴロクは、至高の酒肴オデンをこしらえつつ、女将に尋ねる。
「身分の上ではそうどすなぁ、本人さんたちがどう思ってるかは、世間様の知るところやありまへん」
「むぅ……」
未だグデグデでぶーたれている白銀の近衛騎士は、しのびで現れた彼女の君主とともに、『お手本』と称する派手な手合せ(どこかで見た表現)を挑まされたあとだ。
『勇者』の資格を廃している帝国内において超一流の実力を持つ彼女にとっても、音に聞く『魔王』を相手取るのは相当に骨が折れたのだろう。
「もー! もーずぇったいに『魔王』となんか戦りあいませんからね私! 聞いてるんですかスゴロクさん!?」
「聞いているとも。ミーナ殿、ここは余に免じて、給金を上げるなりしてあげてもらいたい」
「無論そのつもりだ。騎士団としても良き教材をいただけた、感謝する」
『人魔戦役』からの長きにわたる復興の中で弱体化した騎士団は、国政における冷遇を甘んじて受けているのが現状である。
戦役で豊富だった資源を枯渇させ未だ回復していない帝国の慢性的な財政難は解消せず、元老院は露骨に自衛のための軍事費を削るよう要求して来るし、それに合わせるかのように魔物の襲撃も増加しているらしい。
建国以来の厳しい状況だが、このヴィルヘルミナという若き女帝は復興と帝政改革を諦めていない。
「貴国との『扉』とあわせて上手に使わせてもらう、『魔王』どの」
「お節介かとも思うが――これも何かの縁であろう。できることがあれば、どうぞ言ってきてもらいたい」
重ね重ねありがたい、と言って、ヴィルヘルミナは凛とした美しいかんばせを穏やかな笑みで彩る。
黎明の薄闇を流したかのような黒髪は魔力の風に揺られ、左右で違う魔法文字を刻んだ吊り目がちの瞳は黒と紫のオッドアイ。
長身痩躯でありながらもしなやかさと女性らしさを併せ持つ全身の容姿とあわせて観察してみれば、『勇者を廃した替わりに皇帝に全部背負わせました!』とでも言わんばかりのすさまじいパワーを感じる。
道理で疲れてもいないわけだ――内心舌を巻きつつ、スゴロクは新たな串をふたつ差し出した。
『物置』で冷凍保存していた取って置きのマグロ(半身)をこの場で叩き潰してこしらえた特製魚肉団子。
気に入ってもらえた。アッと言う間にひとつ平らげると、未だ不機嫌な側近に差し出す。
一口で元気をよくした二人からレストラン出店の要請を受けて快諾すると、スゴロクはまたとっておきを持ち出した。これに驚くのはシュカである。親類同様、無類の酒好きらしい。「魔界ブドウのワインやん! 開けてええんでっか!?」
「一向かまわんよ。今夜は楽しく飲もう、ちょうどにぎやかになりそうだ」
きょとんとする皇帝らの背後で、ドアベルが乾いた音を立てた――からんころん。
2015年 10月08日 14時55分 公開
2015年 10月08日 14時58分 誤字修正




