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港町にて

 商業都市より北西へ進むことおよそ半日。

 人間の足なら徒歩で二日ほど掛かる道だが、今回は少しズルをしてみたので早くたどり着いた。

 その翼をって風と空を引き裂く龍族の飛翔魔術は、人間界には未だ流布るふしていないようだ。

 西大陸に渡る航路の出発点となる港は、かの大陸や諸島部よりもたらされる商品が行き交い、相応そうおうの潤いを得て、商業都市に負けぬにぎわいの大都市となっている。立ち並ぶ商店や住宅には潮風に耐えうる材質が用いられ、工法や形状にも海浜かいひん地帯に相応ふさわしい工夫が施されている。

「よき運動になった――これこれ、すそを引っ張るでない」

 飛んでくるのを見たのだろう子ども等にまとわりつかれながらも、魔王は大通りを進む。

 今度教えてくれとか言う無茶振りをしながら案内してくれる男の子たちに従うと、陽気な船乗りたちの賑々(にぎにぎ)しい会話や、富裕層らしき乗船客の優雅なお買い物の様子がゆっくり観察できる。おやつ買ってくる、と言って早くも散り散りになった腕白坊主わんぱくぼうずらをあえて追わず、しかし子どもの速度で市場へ。

 ほろを巻いてびた愛剣を買い取りたいと言われてやんわりと断ったり、なぜか船乗りの酒盛さかもりに誘われたりするのも、魔王の好奇心と観察眼を大いに満たさせた。

真昼間まっぴるまから酒か……まあよかろ」船乗りの誘いに乗り、酒場へ向かう。

 マドロス達の陽気な自慢話をさかなに杯を傾けていると、初老の店主が皿を差し出してくる。

「あちらのお客様からです」

 もしやと思って視線を送ると、空色の髪をいい加減に束ねた娘――また美女である――がウィンクを返してきた。豊かな胸をドンと叩いているので、おごってくれると言うのだ。「ありがたく」

 この近海で豊富にれる『メデタイ』の煮つけを味わう。高級レストランではこの料理は出てこないだろう。料理勝利らしく味付けは濃く大雑把おおざっぱだがコメの酒と相性がいい。うたげを祝う魚だと、皿の絵付けが語っている。

 柔らかな身が奏でる味わいに舌鼓したつづみ)を打っていると、くだんの女が近づいてきた。半猫の剣士に聞いていたとおりの、ふくよかで豊かな容姿だ。

「どうです、おいしいでしょー?」

美味びみである。すまないな、馳走ちそうになっているよ」

「いいですよー。ミャオっちから聞いてますんで、あたしから前払いってことでひとつ~」

「ふっ、ミャオ殿も手回しが良いな――美しくもしたたかな女性のなんと多い世界である事か」

「ははっ。カッコいい男の人も多いですけど、なんかバランス悪いですよね」

しかり。まぁ、はなのある冒険生活は楽しいものだ。で、余に何をお望みかな?」

 メデタイの一皿じゃ足りないかもだけどと前置きした女は片目をつぶって、胸の前で手を合わせる。

「あたしを『シー・オター』まで送って欲しいの! 船が壊れちゃったんですぅ!」

 大陸と大陸をへだてる大海、『』グレートオーシャン』。

 その洋上を漂う古代の移動要塞いどうようさいを国として呼ぶその名は、魔王も聞きかじった事がある。地上における亞人とは違う社会を気付いた海のたみが住む楽園だと言う。

「ということは、娘御むすめごは『うしおの一族』か」

「そですよぉ。あたしはディルフィーナ、イルカの因子持ちです~」

「船の確保――手つかずだなその顔わ」

「めんぼくない……ぐすん」愛らしいまん丸の眼じりに涙が浮かぶ。

 となると、船を乗り継いでの長旅か……路銀ろぎん稼ぎ含めて船の調達に専心せんしんするか、どちらかだ。

 いかに『魔王の力』を持つスゴロクであっても、技術もなしに立派な船をこしらえることは出来ない。非常にゆっくりとではあるが移動する要塞都市を大海に追うならば、最低でも大型船が必要だ。

 一度目の来訪時に水夫ギルドへ顔を通しておいた(ちゅう:宴会に出す酒を全部おごっただけ)ことを思い出し、

「船に関してはアテがある、ただ急ぎならどうしても手が足りない」

 困り顔のイルカ娘に他の協力者もつのる事を提案し席を立つ。

「わかりました~。ほかの人にも頼んでみますね。どうかよろしくお願いいたしますですよ~」

 間延びした口調で頭を下げられると、クソ真面目な魔王も苦笑を浮かべるしかない。

2015年 09月24日 15時37分 公開

2016年 04月29日 10時23分 誤字修正

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