表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/129

ひそひそ話

「どうでした、人間界は」

「とても賑やかな場所でした。魔界と同じく、どんな存在でもゆるしてしまいそうな」

「そうね――今は魔族も人間も、ある程度は歩み寄っているから」

「以前はそうではなかったと?」ロデル=カッツェは、コルトシュタインで求めた菓子をつまみながら尋ねた。久々にシェリーの私室を訪ねているところだ。

「『魔王』が人間界に侵攻し『勇者』が世界平和を守る。その逆もあるけれど、ふたつの土地に住まうもの達は、対立の理由を見つけては競争や戦争を繰り返している。わが国とわが王家は例外中の例外なの」

「コルトシュタインは平和に見えましたけど……」

「あの地域は魔力が多くないですし、魔界から見れば資源も少ないとのことですからね。兄上が調べた限りでは、紛争地域もずいぶん限定されてきつつあるようです。ニンゲンという種族自体が自立し、強靭さを獲得したと言うことでしょう」

 うたうような口調で言い切ると、くだんの菓子を撮んで口に放り込む。小麦粉の生地に岩塩をまぶした揚げ菓子だ。

「……みんな仲良く、ってワケには行かないんでしょうか?」

 口の中をパリポリと音で満たす龍族とは対照的に、生真面目な半猫は眉をひそめている。

 魔族の国同士が基本的に内政不干渉であることは知っているが、突っぱねるように事実だけを告げるのは躊躇ためらわれる。

 仕方ないわよね、この子は優しい子だし――。逡巡しゅんじゅんにケリをつけ静かに口を開く。

「みんなが仲良し、と言うのは難しいかもね。血を見なければ満足しない残酷な王や、弱き者をしいたげる事にしか快楽を見出せない魔王も、確かにいるのだし。ただ……」

「ただ?」

「必要悪――と言い切ってしまうと語弊ごへいがあるけれど。この世界では、そういう残酷ささえ許容されるべきだと思うの。力のバランスや人々の考え方がどちらかにかたよった時点で、『多様性』はすでに失われていると考えられる」

 なんとなく分かるような、と考え込む妹分のために酒を注ぎ足す。

「私たちの知らない国ではひどい戦争があるかもしれない。どこかに、いいえ……何処にでも、苦しんでいる人がいるかもしれない。彼らのために『勇者』がいる。救国のための戦いが生まれ、やがて語り継がれる。生まれていく物語を、聞きたいとは思わない?」

 ちょっとしゃべりすぎたかな、と息をついて、シェリーはグラスをぐいとあおった。

「では、スゴロクさまはそれを語るために?」

「あれで結構特殊だから、そういうことに楽しみを見出したのは兄上らしいわね。楽しみを自分だけのものにできないのも」

 真っ赤になってうつむく妹分の視線にわざと視線をからめ、「そういうところ、ロデルは好いてくれているのでしょう?」

「またからかうー」

「あら、今回は本気よ。……どうか兄上を頼みます」

「あ……は、はい……」

 さらに真っ赤になりながらも健気けなげ首肯しゅこうするロデルの成長をシェリーは思い返し、また思い描いた。

 何を隠そう、異母兄に対する好意を一番最初に打ち明けられたのは自分自身である。

 学習や鍛錬を手助けしてきたつもりだし、これからもそうするだろう。不粋ぶすいな打算ではない、はばったい表現を使えば、愛情で動くべき相手だからだ。

 情熱を、無償むしょうの愛情を注ぐべきだからだ。異母兄にせよ自分にせよ、ロデルの存在は大きい。

 弱い部分をさらせる異性を――同性もそうだが――求めてしまうのは、魔族の本能とも言える短所だ。

 恋多きをはじとせず、そうであるところで何の違和いわもない社会を作り上げたほどだから、その本能は相当に強いだろう。

 これも本能に従い、王妹おうまいはまた酒を口にした。妹分がすぐさま追加してよこした一杯である。

「酔わないんですね」

「うん。龍族は特に酒好きでね、普通の食物の中では一番魔力補給の効率がいいの」

 返杯を干そうとして、ロデルははたと手を止めた。

 友の約束を交わしたファーウィンド家の末娘のことが頭をよぎったためだ。自信たっぷりに、彼女が酒好きになることを断言して見せた姉貴分の姿と、今の言葉を重ねる。交点に見えるのはただ一つ。

「特別なのはジェシー殿だけじゃなかった、ってことね……」

「よくある話よ、いまどき」

 悪びれもせずケトケト笑うのを見て、

兄妹きょうだいそろって、人が悪いんだから」ロデルは珍しく、悪態あくたいをついてみせるのであった。

 そんな部分もまた好もしいと思っていることにも、気づいてはいたけれど。


2015年 09月14日 11時18分 公開

2015年 11月14日 11時01分 誤字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ