試験開始
それから一月弱が経過し、いよいよ若きコルトシュタイン王の婚姻を祝う武術会が迫ってきた。
「どうやら間に合ったな」ジェシーとスゴロクは、城の大広間で静かに向かい合っている。
アルフレッドがこしらえた三カ月もの猶予期間を活かし、魔王は思いつく限りの鍛錬を少年に積み重ねさせた。「本当に、ありがとう……スゴロクさんのおかげだ」
「早い。ジェシーは武術会を突破して初めて、余と我が妹らに礼を述べることができる」
「……わかりました。試験、お願いできますか」
「承知。余はほとんどの力を封じている――おそらく賢王よりも少し強い程度だ」
アルフレッド王と手合せした結果を踏まえ、スゴロクはこの日のために『力を極限まで抑える』装身具を開発した。
同様に、試作の武器を少年に供してある。敗北することはないだろうが、何処まで成長したか見極めることはできるだろうと踏んでいるのだった。
そうまでして戦いたかったのかとツッコまれれば、その通りである。
「良い力を発するようになった。余も正直、血が騒いでならぬ。さぁ、剣を執るがいい」
「はい!」
静かに抜剣し、すぐさま軽く跳躍して打ち下ろされた剣を受け止め、押し返す。
「使い心地はどうかね?」
「メッチャすげぇよこれ! ぜってぇ売れる!」
蜻蛉の薄羽を思わせる白銀の刃は強力な魔術で幾重にもコーティングされており、軽さと細さに反して抜群の鋭利さと圧力を誇る。
魔力体力の消耗が激しく長期戦には向かないものの、それを補って余りあるほど優秀な武器だった。
蛇足を挟めば魔王軍にとっては飽くまで試作品であり、ぶっちゃけ使い手の事なんぞ何一つ考えずに設計・生産した代物なのだが……。
なんだかこの子には合っているようなので、余計なことは言わぬが花であろう。不真面目な話は内心に留め、助言者らしい忠告を挟む。
「それで悪さなどするなよ? 地の果てまで追いかけてボコボコにするからな。こちらにも信用というものがある」
「分かってるよ!」
鍔迫り合いを打ち切り、近距離で再び撃ち合う。詠唱もせずに発動される魔法にも、少年は冷静に対応して見せている。
魔法を切り裂く魔剣を使いこなす様を見て微笑む魔王は、少しだけギアを上げてみる事にした。
意識を集中し、『魔王の力』を魔剣に上乗せした。アルフレッドが奮うであろう力量を鑑み、ほんの僅かだけにしておく。「『王』との勝負に於いて肝要なのは――」
腕を振った軌道の通りに放電現象が現れ、襲い掛かる。少年の跳躍に合わせて瞬時に斬り上げると、今度は竜巻が吹き上がった。
敢えてその中に突っ込み切り抜けて突きを放つが、魔王の姿は幻のように掻き消えた。
「――どれほど恐ろしい力の差を見せられようとも、決して諦めぬことだ」見上げた大広間の天井近くに、巨大な弓を引き絞るスゴロクがいる。
力を押さえつけているだけあってか、分身魔術を同時に用いた『多重砲火』までは使えないようだ。
繰り返すようだが、様々な種族を束ね統べる魔王の力は、人間の王などよりよほど強い。『魔王』とは本来、勇気あるすべての人々にとっての絶対的な壁である。
それがすべてではないにせよ――勇敢なる者と対峙する以上は、そうあらねばならぬのだ。いつもおちゃらけてばかりいるが、この魔王もそこらへんはきっちり抑えている……はずだ、たぶん、きっと。
2015年 09月02日 11時14分 公開
2016年 04月28日 15時01分 誤字修正




