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魔王暗躍

 さらに一カ月が過ぎた。

さすがに実家および商業都市での逗留が長すぎると感じた魔王は、各地の観測および調査を再開していた。既に何箇所かの洞窟・遺跡のマッピングは終えている。

 この冒険旅行において、強力な転移術で居城への帰還が容易なことは、スゴロクにとって優位に働く。今日はここからここまで、と決め、それに従って各所を回ることができてしまうわけだ。

そういうわけで、現在のスゴロクは砂漠の旅人であった。

 コルトシュタインより船に乗ること3日、小さな海峡を挟んだ向こう側の狭小な砂漠地帯である。ここは不可思議ふかしぎな噂のある砂漠で、それゆえ後回しにしていた。

「ふむ、これほど気候が異なるとは」

 商業都市国家からなら、温暖でカラリとした気象条件に変化がつくほどの距離でもないはずだが……。

「少々不自然な点があるようだな、この世界には」照り付けるような日差しのもと、魔王は砂漠を南へ赴く。

 例によって『網』に引っかかる何かを感じ、一際ひときわうずたかく盛り上がった広大な砂山を凝視する。

「ほーう。おもしろい――はぁぁっ!」

 『魔王の力』を開放し、詠唱えいしょうの一つもすることなくつむじ風を巻き起こす。オアシスの街で聞いた噂は、間違いでもなかったらしい。

 本性を現した崖の下に、鋼鉄らしい金属で作られた鋭角の街並みが存在している。噂に曰く、砂に埋もれたくろがねの古代文明、幻の国。

「美しい街だ」

 探り当てた気配を確かめるべく、スゴロクは切り立つ崖から身を躍らせる。飛翔ひしょうの魔術などはお手の物であった。

 一番目立つ尖塔せんとうに浮遊し、吹き降ろしの気流を駆って走り降りる。体重のコントロールだってお手の物であった。

――何者だよ、と言う話である。

「魔王である。そろそろメタ手法はよし給え」

 ちょっと意味の分からないことをボヤきつつ、スゴロクは鋼鉄で舗装ほそうされた道にふわりと降り立った。

 今しがた駈け下りて来た塔の上から、同じくフワリと降りてくる影があった。砂漠の日差しを受けてきらめく黄金のふくろう

「何年ぶりかしら、お客様なんて」

「無礼をお許し願いたい、私は」

「冒険者殿でしょう? まさかここを見つけられるとは思っていませんでしたが。私はシュエット、お見知りおきを」

「痛み入る。スゴロクと呼んで欲しい」

「承知。ちょっと寄って行きますか、お茶くらいなら出せます」

 有無を言わせず転移術で連行された先は、こぢんまりとした部屋である。

「構造とかが知りたいのですが」

「今はやめておいたほうが賢明です。他に目的があるのでしょう? どうやら、私も本来の姿をさらさないほうが良いようです」

 動かないくちばしが呟いた言葉を、魔王は聞き逃さなかった。魂の底から沸き上がる衝動を、思わず言葉にしたようなささあやきだった。

――でなければ戦いたくなってしまう。

おそらくは『賢者セイジ』級の大魔導師だいまどうしであろう。はるか昔、この街から人民が姿を消す前から存在し、ここを訪れる冒険者や『勇者』に知恵を与え、助言を授けて来たのだろう。その姿勢を、流れ者の魔王に対しても通したいのだ。たぶん。

「では、シュエット殿。一つだけお聞きしたい」

 この場で剣のほろを解いてみたい衝動を押さえ込み、スゴロクは穏やかに尋ねる。「このあたりで質のいい魔法鉱物を生産するような場所はないだろうか」

「ここに来られたのは正解でしたね……少々お待ちを」

 たおやかな貴婦人が片手を差し伸べる如く、黄金の梟は片方の羽を広げる。

 転移術で運ばれてきたこぶし大の金属塊きんぞくかいが浮き上がり、魔王の手のひらに乗った。「そちらをお持ちください」

「ありがたく。では、私も何か差し上げねば」

「売っていただけるのでしたら」

 古き者らしく冷静で抑えた口調を保ってはいるが、商いをする者だと見抜かれたのだろう、届く声は弾んで聞こえる。

 にこり微笑んで『物置』を探る。

「あわわ、どうしましょう……これじゃ選べないわ!」

 どっさり出てきたあれやこれやを、魔王はすべて置いていく事にした。思わず本来の姿を晒すほど喜んでいるのだし、

「今日のところはこれにて。転移術を使っても宜しいですかな?」

「え、あぁ、はいどうぞ! お構いもしませんで!」

「これを頂けるのであれば、感謝をしか述べますまい……では」

手の中にある魔法鉱物ときたら、現在の貨幣かへいでは城を売り払っても買えないと評判なのだから。




2015年 08月26日 15時31分 公開

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