魔王スゴロクは逃げ出したっ!(1)
数日後。
スゴロクの国の移転作業が滞りなく終わり落成を迎えたばかりの『ワンダー・アイランド』。
「いよいよですね、スゴロクさま」
「うむ。心の臓がおかしくなりそうである」
魔界でのたたずまいそのままに移動してきた『ワンダーダイス』本社社屋(旧魔王城)の中央ロビーで、慧眼の魔王スゴロクとその側近ロデル=カッツェの婚姻の儀が行われようとしていた。
魔人謹製の楽器を携えたダイス社社員達が賑やかな――荘厳なとか厳粛なとかでないのがなんともスゴロクらしい――次々と列席者が姿を見せる。
国同士の交易がある王や旅先で親交を深めた友だけでなく、大々的な宣伝に乗ってやってきた宴会好きの冒険者や農夫、商売人たちまでが居た。
『ワンダー・スタジアム』での活躍により『紅蓮の勇者』なる称を得ていたロデルが結婚するので飛んできたというファン・クラブも、他ならぬ彼女が幸せ満点の笑顔を見せたので、快く挙式に納得してくれた。
東国の衣装に身を包んだ者、北方の特製コートを着込んだ者……暑くて脱いでしまった。
健康的な身体を惜しげもなく見せつける潮の民の男女や、ギリギリ亞人の姿に見える魔人たち。整然と居並ぶ重鎧の騎士団は、無敗将軍の旗印を戴いている。
それら全てを見渡せる屋上のテラスから、スゴロクとロデルは移動を始めた。
「すすすスゴロクさまっ! は、恥ずかしいですよぉ……!」
「何を言うのだ、ロデル=カッツェ。これなるは紳士の務めである」
プリンセスを扱う如く妻を優しく横抱きにし、特設の階段を一段一段降りて行く。
魔王の正装たる漆黒のローブには迷宮図書館より贈られた紙のコサージュが虹色に光っている。
ともすれば女性と見紛うような長髪は短めにカットされたし、式の最中に伸びないよう魔法もかけてもらった。自分でやると言ったのだが、「今日くらいは人任せで居れ」という親友の言葉に従って身を飾ったのだった。
「自分で言うのも可笑しいが、中々良き男ぶりであろう?」
妻が好きだというこの姿を、いつの間にかスゴロクも気に入っていた。
「はい、とても格好良いですよ……。わたくしは、いかがでしょうか?」
はにかみながらも問う。
2016年 04月22日 14時20分 公開




