修行継続中
未熟な子どもと言えども、一カ月も容赦なく鍛え続けられれば、幾ら何だって実力はついてくるもので……。
「参った! 強くなったなぁ」
スゴロクが有り余る私費で雇い入れた人間の戦士を難なく凹ませられるくらいには、少年も成長していた。
「俺もまだまだなんで……」魔族たちと剣を交えることを想像すると、本人は少しも気を抜けずに居るのだが。
訓練相手として顔なじみになった無精ひげの男(老け顔でおっさんに見られるらしい)を起こし、少年も訓練場に座り込んだ。
「ブルースさんはさ」
「あん? 何だァ改まって」
「どっかの王様と戦ったこと、ある?」
「どっか、じゃなくて――アルフレッド陛下となら、勝負したことあるぜ」
「マジでか」
「おお、マジもマジ。じゃなきゃ大先生は俺を雇ったりしねぇだろ。脅かすけど、あの人けっこー強いぞ。スゴロク大先生にゃ遠く及ばんけど」
ゲラゲラ笑って、ビビるジェシーの頭をポンと叩く。
「老若男女も種族も問わず強ぇえヤツを好まれる方だ。変わりモンだが、なぁに……悪いことにゃならんさ」
「そうかな……」
「そうさ。『王』ってったって色々なんだよ。人間ってなそういうもんだ」そういうもんだ、のところで勢いをつけて立ち上がる。「帰るのか」
「ああ。おっさん疲れたわ――ま、がんばれや」
姿を消したおっさんと入れ替わりに、龍人が姿を見せる。
「いっつもいきなり帰ってきますよね、シェリーさんって」
「驚かなくなりましたか……慣れって怖いわねぇ」
「いや、そういう問題ですか?」
「相手の行動に驚かないということは、頭の中で備えることができるということ。ローレンス殿から聞く限り、君は理屈より直感で身体を動かして戦うタイプでしょう?」
「考えるのって苦手なんです、剣を取ると夢中になっちまって」
「そういう君が、何があっても心をゆるがせにしないことを覚えつつある。立派な成長だと思いますけどね」
素直に一礼したのに笑顔で応じ、「さて、そろそろ最終試験のことを考えねばならない時期ですね」
「う……や、やっぱスゴロクさんと戦うンですよね?」
「そうなりますかね。私は随分と悩みましたけど、兄が是非にと言っていましたから」
ジェシーは息を吞んだ。初日に見学したこの兄妹の『お手本』が、半ばトラウマとなって残っているのだ。
「あんな派手にはなりませんよ、うちの魔王には思い切りハンデをつけさせます。ローレンス殿から聞いているでしょう?」
確かにそう言っていたけれど、不安なもんは不安である。なにせ相手は『魔王』なのだ。それも、超エリートの『勇者』でさえ震え上がるほどの。
「まあそう悲観的にならずに――どうやら君は少し、特別ですし」
「はい?」
「不躾だとは思いましたけど、家系図を遡って調べさせてもらいました」
ひとりだけ知り合いがいた、と、シェリーは言った。
「ってことはバリバリの魔族で、今もどっかで生きてるってことですか」
「察しが早いわ。えぇと、なんかその……ごめんなさいね?」
こっそりと秘密を暴き立てるようで気は進まなかったけれど、どうしても気になったのだと言う。何がだと尋ねると、
「だって、あれからまだ一カ月と少しですよ? 兄上の育て子達にも鍛えたら短期間で大化けした子はいましたけど……。最初から『勇者』の才覚でもなきゃ、今の君の強さになろうと思ったら最低一年は掛かるわ」
「んで、戦闘民族にしても普通じゃねぇと踏んでくれたンですね」
「そういうこと。さて、これを聞いてどう思う? 俺って半分は魔族だから修行サボってもいいや……」
「とか言ったらぶっ飛ばされるワケでしょ、それも今すぐ」
「あら……鋭いわねぇ、フフフ」
言わなくてもぶっ飛ばされるけど、と言う呟きを優雅に聞き流し、シェリーは腰に刷いた剣を鞘走らせる。
自らへのハンデとして、最も得意とする魔剣術――剣と魔法を巧妙に組み合わせるスタイルだ――は封じるらしい。
純粋な戦士の技とは剣の抜き方や構えからして違うのだ、とはローレンスからの受け売りであった。
「お願いします、シェリーさん」
「過度に恐れなくなった……善哉」羽みたいな靴音を残し、龍族の剣士は跳んだ――。
2015年 08月18日 15時20分 公開




