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グルメ小旅行(1)

「楽しんでいるか、ロデルよ」

「はい、スゴロクさま!」

 快活に応じてからめんをすすりこむロデルの手元には、一冊の本がある。

『冒険者のためのトラベルガイド』シリーズ初の番外編となる、『世界ぐるっと食べ歩き紀行』。

 観測の旅の間にすっかり舌の肥えた魔王が、記憶に残る味を再び尋ねまわって(少々サボって転移術を使いまくったが)滑稽こっけいな旅行記に仕立て上げたもので、各地の隠れ家的な店までわかりやすく紹介されている。定価300ゴルト、お子様も一回おやつを我慢すれば買える値段だ。

ワンダーダイス社編著のお手軽冒険文庫の売れ行きは同社の製品の中でもトップクラスである。

 出版業の盛んな国や町は未だ数えるほどしかなく、スゴロクとしてはそろそろライバルが欲しくなtってきたところなのだがそれは置いておくとして。

「うむ……相変わらず良い出来である」

 店主が冒険者を雇って仕入れるこだわりの食材をふんだんに使った『特製らぁめん』をじっくりと味わう。

「おいしゅうございますね、スゴロクさま!」半猫はさっきからホクホク顔で、トークのキレも絶好調だ。

 知識を得ても控えめな性格は変わらず、滅多めったにひけらかしたりしない娘であるが、きょうが乗ればスゴロクも知らないような雑学を披露してくれる。

地下世界での探索行を通じて遠方の知り合いが増えたのも大きい、とは本人の弁である。

 二人だけの小旅行は魔王にとってこの娘の魅力を再確認する過程でもあった。

 可愛らしい猫の耳を戴く真紅の髪はまさしく紅蓮ぐれんの如くある。抜けるように白い肌はいま薔薇ばら色に染まり、取り落としそうになった丼を慌てて止める両手は細くつややかで、爪の先まで手入れが行き届いている。

 騎士の証たるしなやかな筋肉と女性らしい丸みを両方保っている理由も不可解だった。

外見だけではない。

 初めて顔を合わせる『勇者』たちの中を楽しげに立ち回り、たちまち仲間同士にしてしまう様も見てきた。年長者は常に敬い、年少者の面倒見もよい。

 疲れた時に素直に疲れたと言えるようになったのも、スゴロクにとっては新鮮な進歩だった。

たまには頼ってくれないと困るのである。

「ロデルは良い女になった」

くるくると愛らしい瞳に理知の輝きを見出し、魔王は呟く。「目標は達成できているのではないか?」

2016年 04月08日 14時06分 公開

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