ローレンスの決意
同時刻。南大陸沖の小島。
『冬と雨の間隙』と呼ばれるその島は、冬にもかかわらず晴れ渡り、夏の太陽が駐留するとも言われる奇異な場所だ。
「スゴロク様は上手く運べたんでしょうか~」
「ロデルは聡明な子だが魔王殿の事となると途端に盲目になる。何ぼ魔王殿がぶきっちょでも問題ないと思うが」
「ですよね~。きっとうまく行きます~」
魔王と王妹に次ぐ実力を持つ大幹部と有限会社ワンダーダイス最高経営責任者の二人は、南の島で休暇を楽しんでいた。
無論ただの休みではなく、『魔人』の王らを援護すべく派遣された別動隊の指揮を任されての南方行であった。
「やー、それにしても、たった三日で片付いちゃうとは思いませんでしたよ~」
「有事に備えておったからな、己も魔王殿も。シェリー殿も奮戦しておったし、当然と言えば当然だ」
受け持った範囲に閉じ込められていた魔物たちの悉くをぶっ飛ばし、『慧眼の魔王』の強さを見せられたことは、古龍にとって名誉なことであった。
それは置いておくとして、と気分を切り替える。
ローレンスに言わせれば魔物との戦闘の方がよっぽどの些事であった。
もしもこの機を逃せば、何のために魔王に協力を求めたかわからなくなってしまう。
が、
「スゴロク殿はあれで結構後ろ向きな性格の御仁、ロデルとは相性が良かろうて」
素直でないという自分の性格を示すように、よそ事ばかりが口をつく。
一方のディルフィーナは愉快そうに笑うばかりだ。何処までも自由な娘であった。
「んふふー……ローレンスさまったら可笑しいんだ~」
「どうした?」
「だって、」打ち掛けていたバスローブを大胆にも解き、潮の娘は水着姿の全身を燦々たる日光に晒した。
「こんなに魅力的な女の子がいるのに、さっきからスゴロク様のことばっかりなんだも~ん!」
水玉模様のビキニが眩しい。イルカ一族の娘に共通の豊かなバストがたわわに揺れている。
「自分で言うと説得力が半減するぞ」
「えっへっへー、いいからいいから。ほらっ、一緒に泳ごう!」
「そう引っ張るな、今行く」
この娘の天真爛漫ぶりを、ローレンスは厭ではない。
どころか、彼自身思ってもみなかったほど惹きつけられている。
だから素養のあった魔法を徹底的に鍛えもしたし、古代より続く龍族の知識を惜しむことなく与えもした。不満が出てこぬよう軍の皆にもそうするあたりは抜け目ないが。
イルカ娘は質のいいスポンジみたいな吸収力でそのすべてを自分のものにし、通算387回目にして古龍の逆鱗を撃ち貫いた。
まさかの事態と言っては果てしなく失礼だが、ともあれ彼は彼女を一目置いて見るようになったのだった。
以来――もともと豊かであった彼の生き様に新しく彩が添えられた。長生きはしてみるものである。
「ディルフィーナ」
白砂の透ける如く青い水面に仰向けでたゆたい、大魔導師は問う。「魔王軍は、会社は楽しいか」
「もちろんですよ!」なめし革で丈夫に作ったボールの上に乗っかる娘は、満面の笑みで応えた。
「では、この休暇は如何だ。己のような古き者と居ても……「楽しいに決まってます! 今日はどうしたんですか?」
水面から身を起こし、浅瀬に立つ。長いローブの裾が波に遊ぶ。
「迷っていたが構うまい」
ぷかぷか浮かぶボールの上の娘と視線を合わせ、その手にペンダントを渡す。砕き落とされた逆鱗で作ったものだった。
「決断は早いほど良い。……これより先も、己の傍らに居ては呉れぬか?」
潮の娘は何も言わない。言葉の意味を噛み締める時間をたっぷり取り、小さく頷いてペンダントを首に掛けた。
「ローレンスさまはズルいです……こんな、いきなり~」
「ふっ、確かに雰囲気もへったくれもないな」
「そーですよー。……でも、うれしいです……とっても嬉しいっ!」
がばっと思い切り飛びついてバランスを崩させ、一緒になって倒れ込む。面食らって目を瞬かせるのを見て、ディルフィーナはいつものように笑い転げた。
2016年 04月07日 15時10分 公開
2016年 04月07日 15時12分 脱字修正




