『勇者』対『勇者』(3)
「大丈夫? ごめんね、無茶させて」
「ありがとう。何で二人で最終決戦みたいなことしてるんだろうね……」
「はは……ごめんよ。なかなか見れなくてさぁ」
シオンは紅茶のおかわりを注ぎ、渡す。半猫は両手で可愛らしく――無意識の所作だ――持って飲む。
調子はどうだ、とか一般的な問答が立ち入る隙もないほど仲良くなった。とはいえ、話すにためらわれる話もある。
明るさだけがとりえの自分を悩ませる問題、それを話していいものかどうか。
嗚呼、ああ、でも……やっぱり僕は……。
シオンは憂鬱を隠して、テーブルの対面に腰かける娘を見つめる。
「?」
「やー、スゴロクさんが惚れるのも無理ないよなぁと思って」
一頻りむせるというお約束を見事に果たしたロデルは胸をなでおろしながら、「な、何言ってンのよもう!」
「冗談とかじゃなくてさ……本気で可愛いよ、ロデルっちは」
「うー……うん……」
保保を染めて俯く。スゴロク以外にそんなことを言われたのはほぼ初めてだ。
概ね美男美女であるところの亞人族としては少々童顔だと思っていたし、今でもそうだから。
「自信持っていいと思うよー。けっこう世界回ったけど、魔族とか皆すっげぇ自信たっぷりだもん。自分が美人なの分かってるんだあのヒトらは」
「シオンも相当だと思うんだけど」
「そぉ? でもなぁ、なーんかふらふらしてるような気がしてさぁ……」
詳しく聞いたところによると、旅先であっちゃこっちゃの男性から求婚されるようになって来たらしい。
「こちとらまだよく分かってねーんだっつーの。あと一年くらい待てねぇもんかしら」
珍しく憂鬱そうなため息をつく。「自分の気持ちをどうしていいかも、僕は分からないのに」
「あ、この話やめ「続けて。『魔王とその軍からは逃げられない』んだから」
いつもみたいに笑って済ませようとする親友を、ロデルは真剣な表情で留めた。
降参だと告げて、照れ臭い話を続けること暫し。
猫娘は、かねてより考えていたことをついに告げた。
人間だからどうだ、魔族だからどうだなんて言うつもりはないけど――互いの常識に縛られて、越えようがない違いに苦しめられるくらいなら。
だったら、わたしは……。
「……マジで言ってんのそれ」
「大マジだよ。勇者アンヴィシオンと見込んでご依頼します」
「ンなこと言ったってさぁ……」渋面を作って見せていることはバレているだろう。「魔界回るのってしんどいよぉー」
「嘘おっしゃい、人間界の戦士の相手なんか飽きてるクセに」
名声を聞きつけて挑んで来る武芸者の悉くを撃破するアンヴィシオン一行の勇名は、魔界にまで轟きつつあった。
そこでロデルは、知り合いの『魔王』やなんかのケンカ相手をして欲しいと頼んだのだ。
百の言葉で説明するよりも、自分の眼で見た方が良くわかるはずだ。
「しょうがねぇなー。エルヴェさんとファルチェさんにも伝えるよ」
「うん! 是非、魔族の考え方も学び取ってくださいな。……スゲェから」
一体どうなることやらとか言いつつ、シオンはキッチンに回った。
「ごちそうするよ」
窓の外では夕焼け雲が西日に光っている。後顧の憂いなく好意に甘えることにした。
最近は人間の武芸者が逃げてしまうと言って頬を膨らませてみたり、やっぱり恋愛話をしようとしてみたり――アンヴィシオンは相変わらず自由な『勇者』である。
眩い夕刻の陽光を受けた黄金の髪が美しいと、自分好みに堅く焼いてくれたパンをかじりつつ思う。
「泊まってくでしょ? つか最近あの二人が忙しくて僕かぁ寂しいんだ、泊まってってくれ」
またノロケ聞かせてよとか言いながらビーフ・シチューを貪るところなんかは、まだまだ子どもな自分から見ても子どもっぽいけれど……。
魔界の変わり者達に直に触れる旅を終えた、その時には。
きっと、この子は『羽化』するのだろう。
それでいい。
そうでなければ困るんですよ、『勇者』殿。
魔の血を持つ者の笑みを浮かべて、ロデルはおいしいサーモン・ステーキを噛み締めた。
2016年 04月04日 12時02分 公開
2016年 04月05日 10時37分 脱字修正




