『勇者』対『勇者』(1)
翌日。
「……で、どうして僕のところに来たのかな?」
『勇者』としての経験と名声を高めつつあるシオンは、小さな別荘を訪ねて来た猫娘に問うた。
「試合をお願いしたいのです。わたくしの知る最高の勇者、アンヴィシオン殿」
「改めて褒められると照れるなぁ」
相変わらず素直な娘である。それがロデルには好ましい。
腰まで伸びた髪をさっと梳き、「聞いたよ。おめでとう」
『霧の森』にいる民とコンタクトを持っているのだろう、こっそり受けた試験の結果は既に知られていた。
ビックリさせようと思ったのにとつぶやくと、悪びれもせずに「ごめんごめん」笑う。
「でも、がんばったね。いつもスゴロクさんと並んでみたいって言ってたもんな」
「はい……特訓に付き合っていただいてありがとうございました」
魔王の与り知らぬところだが、『扉』を介して頻繁に会い、互いのために秘密特訓を重ねていた二人である。
ロデルにとってはシェリーのカリキュラムと同時進行だったけれど、秘書の仕事は休ませてもらえたので、何ほどの苦痛でもなかった。
「僕のほうこそ。今でも魔力はロデルっちの方が上だもんなぁ。きっとずーっと敵わない」
「褒め過ぎだよ。試合……お受けいただけますか?」
「是非。よろしくお願いします」
終わったら僕らにもお祝いをさせてねと言い添えて、この秋で十五歳になった『勇者』は剣を刷いた。
庭に出ると向かい合い、一礼。
「一本勝負」互いに最も得意とする魔剣を選び取り「おっけー」構える。
シオンは下段・逆手持ち。ロデルは上段・順手持ち。性格が現れている、と言ってはまずいだろうか。
姿勢を低くしたシオンが仕掛ける。地面すれすれを飛ぶように距離を詰め、先制の一撃。
庭先の地面が抉れた。野菜を植えるのにちょうどいいかも知れない。
「ロデルっちはさぁ、何でそこまでマジメで、自分に厳しくできるの?」
「そうね……スゴロクさまが魅力的だからかな。追いつきたいって気持ちが、好きってのより先に来たから」
鋼の音を響かせ、魔力の火花を散らす鍔迫り合いの中でも、女の子らしく会話をしようとする。
曲芸みたいな動きで縦横無尽に剣を撃ち合いながら、
「あー、分かる分かる。僕もクラッと来てるンだよね実わ……まあ、お父さんみたいに思ってるだけなのかもしれないけど」
「そう、か……そうなんだ」
「……って僕かぁ馬鹿か!? これ黙ってるつもりだったのに!」
「ありがとう。シオンは嘘とか隠し事が苦手なんだね」
「正直すぎるのも考え物だよね。ってゆーか、もっと怒ったりするかと思ってたんだけど。僕は横から現れて、キミの大事な人を勝手に……」
思ったとおりだ。悩ませてしまったんだなと、ロデルは理解する。シオンは、魔王さまのことを――。
「怒ったりしないよ……友達だもん。それにね、魔界では君主がモテるのは良い事なの」
「そっか……そういうものなんだね」
少々釈然としない口調ながらも、頭から否定されないことは嬉しいらしい。
「魔界の国のこと、気になる?」
「うん、すっごく」
今まで見て来た人間界の国々について、あとで聞いて欲しいという。快諾して距離を取った。
2016年 03月31日 14時38分 公開




