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南の島の魔人の王

 それから三日後。

『おおっ、これだ!』

 魔王は南海の海底都市を『扉』で尋ね、依頼通りの書物をその王に手渡した。

獣の爪で器用にページをめくり、南の島の『魔人』のおさは喜びを声で示した。

『感謝する、スゴロク殿!』

もしも豊かな表情があれば笑み崩れているであろう顔面をこちらに向ける。

無理を言ってすまなかったというようなことも言って、深く頭を下げた。

「そうかしこまらないでください、偉大なる『魔人』の王。実質、私は何も――わかる範囲の世界を回ったに過ぎません」

古代の賢者と彼女が管理する本の迷宮が存在しなかったらどうなっていたか分からないという事実が、魔王スゴロクをして謙虚けんきょな態度を取らせている。

思慮しりょ深い男だ。もっと大胆なヤツと見たがな』

「はぁ……」

『いや、責めているわけではない』

これでは話しづらいなとボヤき、ケーニヒは本を開く。

『眩しいから目を閉じておけ』

 言い置いて、ゆっくりと紋章を描く。魔力の収束する感覚がしばらく続いたが、やがて王は龍の声で大喝だいかつを上げた。

まばゆくもあたたかい光が、謁見の間を包む。

『待たせた』

まばゆさが完全に去ると、彼は人に近い姿となって立っていた。

鋼の色の鱗はそのまま全身鎧プレートメイルのように巨躯きょくを覆い、両眼には龍の瞳孔どうこうが見える。

腰まであり魔力の風に揺れる長髪は、海底にわずかに届く陽光を乱反射して七色に輝いている。巨躯の戦士然とした己の体格を確認し、王は満足げに頷いた。

『貴兄やカーヤ殿が動いてくれねば、これは動かなかったことである。早速に報酬を考えねばな』

 多少の無理は利くから何でも言えとふんぞり返るケーニヒに、

「では……どこか人の手の入っていない島などご存知ありませんかな」

『そんな事でいいのか』

「ええ。実は、私の治める国を人間界に移したいと考えて居ります。他者の生活圏に干渉せぬ土地となると、なかなかに難しいのですが」

『だったら、よい方法があるぞ』

 羅針盤のようなものを取り出すと、大きな指で器用に動かした。

『ふむ……おれの知らぬ土地ばかりだが、中央大陸から南への海に『空き』があるようだな』

満足げに頷き、『招集』の紋章を描く。

『エイゲート! ラピュリス!』

魔王でさえ媒体を介さねば発動できない魔法を簡単に使い、彼は自らの他に動ける者を呼び出した。

『わが近衛騎士で最も魔法と科学に通じた二人である。人化の法を使うのは後として、今はその力を借りる時』

 二体の魔人の片割れが複雑きわまる魔法陣を起動し、もう一人が取り出した球体を――いきなり叩き割った!

『この国を人間界より隔てていた『壁』が今、みごと打ち払われた! これより中央大陸遠海へ向け、大規模転移を行うものであるっ!』

 さすがのスゴロクもどうしようもなく、事態はあらぬ方向へと進んで行く。

急速に高密度の魔力が収束し、島ひとつ分の海底都市を例の黒い空間が一瞬だけ包む。

それが消えた時、魔人の都市は既に、何らの影響を与えることもなく人間界の海の上に浮かび上がっていた。あまりと言えばあんまりな展開である。

「何がどうしてこうなった」

『魔王が来たりてそうなった。細かいことは気にするな、がはは!』

 スゴロクは、思わず肩をすくめていた。

気にするっつーの。

2016年 03月25日 11時29分 公開

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