南大陸ふたたび
「我ながら忙しなきことである」
3日後。魔王は今度は南大陸にいる。
「いいじゃないですか。もう人間界全部がスゴロクさんのお庭みたいなもんですよ?」
「ふむ……カーヤ殿はいつも楽しそうだ。見習わねばな、余は基本的にあまり明るくない」
そうかなーとか小首を傾げて、「ま、見習わねばなんて言ってもらえるのは嬉しいですけどね」
珍しいコンビは現在、南大陸中央部の結界へ向かっている。ようやく調査の許可が降りたのだ。
「あたしも行きたかったなぁ」と口を尖らせていたイズムルート博士は、マティルダ姫から直々に呼ばれて『上』の城に赴いてしまった。
「イズマも大変ですよねぇ」
「『数列の魔王』が起きれば、負担も減ろうがな」
「ぶつぶつ言いながら楽しんでるみたいだし、いいんじゃないですかねー?」
「そうか……やや、もう着いてしまったぞ」
話をしながらだと目的地に早く着くような気がする。
「うん、懐かしいですねぇ」
巨大な結界に触れた『勇者』の手が、青白い電光を帯びて輝く。夜の帳が停滞したような色の結界に、人が通れる程の空間ができた。
「早業であるな」
「カッコいい詠唱もあるけど、クセですっ飛ばしちゃいました」
てへへと舌を出してみせる。子どもみたいな仕草だった。「さ、行きましょう」
「ああ」
『物置』から対汚染ローブを取り出して、それぞれ羽織る。二人ともわりと拘りのないラフな格好だったのが、一挙にそれらしい雰囲気になった。
「しかし、商品名が『対汚染ローブ』じゃ売れませんぜダンナ」
「誰がダンナか……。良き名をつけねばならんのは確かだが」
「なんか考えときますか」
「お任せしよう」
かくのごとく平気で話せるほど、ローブはバッチリ作用した。イズマ謹製浄化装置の力も相当大きい。服にポケットがあれば縫いこめる大きさになっている。
空間が歪んでいる如きのことを気にするような二人でもないため一応記しておくに留めるが、結界内部では周囲が常に動いており、様々な色の物体が乱舞している。
歩いている場所も、既に地面ではないのかもしれない――地面だと思っているから地面になっているとでもいうのか?
「空の外側にも出られそうであるな」
「じゃあ、このままこの空間を歩けば異世界とも繋がるんですか?」
「かもな……」
『滅びの杖』やはり、国ひとつを消滅させるに留まらない威力を誇っていたのだろう。
自発的に発動させた上、殆ど一瞬も間を置かずに封じ込めたために力だけが凝縮され、地表一帯が更地になる程度に過ぎなかったのだ。
「って、なんか地面まで歪んでないです?」急速に方向感覚が失われていく。強烈な浮遊感に包まれ、周囲がさらにひずみ黒く染まった。
「力が動いている。放逸な流れとなって空間にあふれかえっているようだ」
分析の異能を遺憾なく発揮したスゴロクは、一瞬にして現象の正体を喝破した。
「何気にピンチなのでは……?」
「取るに足らんさ。カーヤ殿は独りでこれに立ち向かったではないか。翻って余は腐っても魔王である」
試してみるかと呟き、首のロケットを外したスゴロクは杖を振るい上げる。
魔力に王の力を載せて収束させた刹那、漆黒のうねりそのものが声を上げているような轟音が出し抜けに響き始めた。警戒恩音だ――と受け取るのは少々強引か。
「怖いのか……フフ。ならば……!」
「何する気!?」
「『魔王』が破壊者だとするならば! 壊せんものなどないはずだっ!」
「んな無茶な! セーブしてないんですよ!?」
「すまんがちょっと意味が分からないなぁ――そぉらっ!」
構えた杖を投擲する。暗黒の超空間を引き裂き、真っ直ぐに飛んでいく。『王の力』は、果たして通じた。ガラスの割れるような音がして、力のうねりは動きを止めた。
2016年 03月14日 14時47分 公開




